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「それで、財布をなくしたんだったな。心当たりのある場所は探したのか?」
「はい……一通りは」
「まぁ、普通はそうだよな。よし、では次は一緒に探しに行くぞ」
「えっ」
「一人で探すより二人で探したほうが効率もいいだろう。ありがたく思え!」
「……はい」
それから二人で校内を探し回り、無事財布を見つけることができた。
どこにあったのかというと、なんと一度探した教室のロッカーの中――を探している時に、先輩に制服のブレザーの存在を指摘され。
そこで初めて、わたしは自分の身に付けていたものを認識したのだ。ポケットに財布を見つけた。
情けない話だが、あまりの動揺にこんなところを探すのもすっかり忘れてしまっていた。
その後、お礼を言うためにしっかり先輩の顔を見たら口をついて出たのが「……魔法使いのお師匠――」という言葉だった。
慌てて口元を押さえた時にはもう遅く、先輩はその言葉を聞くとただでさえキラキラしている目をこれでもかと輝かせながらわたしの肩をガッと掴んで、こう言った。
「ナイトショー、見てくれたのか!?」
ナイトショーというのは、先輩のバイト先であるフェニックスワンダーランドでやっている特別なショーのこと。
わたしはあまり詳しくないのだけど、SNSで話題になっていたので内容だけは知っていた。確か先輩は主役といって申し分ないキャラクターを演じていたはずだ。
その後名前を聞かれたりクラスを聞かれたりして、廊下ですれ違ったら挨拶するぐらいの仲になった。まあ、今となっては挨拶だけでなく雑談をしたりたまに一緒にお昼を食べたりする間柄にまでなっているのだけれど。……雑談と言っても、先輩が一方的に喋ることが殆ど。
でも、わたしにはそれがどこか心地よく感じられた。
先輩と一緒にいる時は、自分の中の張りつめていた糸が緩むような安心感がある。
それはきっと。天馬司という人間が纏う雰囲気が、他人を拒絶しがちだったわたしにとっても、居心地の良いものだったからなのだろう。
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あきいろ(プロフ) - もみじさん» 恐縮です!! しかし毎秒更新となると比喩とかじゃなく作者がしんでしまいます (2023年2月1日 6時) (レス) id: 1e0caf27cc (このIDを非表示/違反報告)
もみじ(プロフ) - うちも死ぬほど好きです。死ぬほど欲を言うと毎秒更新してほしいです← (2023年1月31日 23時) (レス) id: d88f17f239 (このIDを非表示/違反報告)
あきいろ(プロフ) - りにゃぴさん» しぬほど嬉しいです……あまり更新できてなくて申し訳ないですが、もったいないお言葉ありがとうございます!! (2023年1月16日 6時) (レス) id: 1e0caf27cc (このIDを非表示/違反報告)
りにゃぴ(プロフ) - えっしぬほどすき。もっと評価されるべきだろ (2023年1月16日 2時) (レス) @page32 id: c7173f4811 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あきいろ | 作成日時:2022年7月27日 20時