その失敗を拭わせて/1 ページ11
ショーの公演も終わり、片付けにAを呼ぶためにステージ裏へやってきた。今日も今日とて観客達にすばらしいショーを届けられたな。さすがオレ!
パイプ椅子に腰掛ける小さな背中が見えて、その名前を呼んだときだった。
「A――、」
「……っ」
彼女の目尻から、何かが伝っていった。振り返った表情は悲しそうに、どこか悔しそうに歪んでいる。
潤んだ瞳がオレを捉えると、小さく揺れた。
「、A……」
もう一度彼女の名前を呼ぶ。しかしそれは、自分の口から出たものと思えないくらいにか細く、震えていた。
「見つかっちゃったか……こんな恥ずかしいとこ、見られたくなかったんだけど」
Aは腕で目元を乱暴に拭ってオレに微笑みかけて、赤く腫れたままの目元に指を添わせ「ほんと、恥ずかしいなあ」と呟いた。
「……大丈夫、なのか」
色々と言葉に迷った結果、オレが言葉にしたのはそんなことだった。彼女を傷つけたくない、これ以上悲しませたくないという思いで、らしくもなく慎重になってしまっていたのかもしれない。
「…………失敗、しちゃって」
ためらいながらもしぼりだすように発された声に、息が詰まる。
「昔からこうなんだよ、なにやっても失敗してばっかり。ひとりじゃなんにもできない」
自嘲して笑った顔があまりにも悲しそうで、辛そうで、酷く胸をつかれた。
「だから私、もうやめちゃおうかなって思うの! 思い切って!」
「……どういうことだ」
吹っ切れたように言うA。あくまで理由を聞き出そうと口を開いたが、思ったより低い声が出て自分でも驚いた。
Aはそんなオレを見て肩をすくめる。が、すぐに真剣な表情で言い放った。
「確かになんの解決にもならないけど……何回やっても同じなんだもん。もうこんな思い、したくないよ」
弱々しい彼女を見ていられなくて、気づけばオレはAを抱きしめていた。
「ひょあっ、司くん!?!?」
耳元でAが驚き慌てたようにオレの名前を呼ぶ。肩を控えめに掴んで引き剥がそうとしてくるが、お構いなしに強く抱きしめた。
「どこを失敗したって言うんだ? どう見ても大成功だっただろ」
「いやっ、大敗北だったんだけど!?」
必死に引き離そうとするAだが、普段から鍛えているオレの腕力には勝てるはずもない。
むしろどんどん顔を真っ赤にして涙目になっていく彼女を見ていると、愛おしさが込み上げてくる。
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あきいろ(プロフ) - もみじさん» 恐縮です!! しかし毎秒更新となると比喩とかじゃなく作者がしんでしまいます (2023年2月1日 6時) (レス) id: 1e0caf27cc (このIDを非表示/違反報告)
もみじ(プロフ) - うちも死ぬほど好きです。死ぬほど欲を言うと毎秒更新してほしいです← (2023年1月31日 23時) (レス) id: d88f17f239 (このIDを非表示/違反報告)
あきいろ(プロフ) - りにゃぴさん» しぬほど嬉しいです……あまり更新できてなくて申し訳ないですが、もったいないお言葉ありがとうございます!! (2023年1月16日 6時) (レス) id: 1e0caf27cc (このIDを非表示/違反報告)
りにゃぴ(プロフ) - えっしぬほどすき。もっと評価されるべきだろ (2023年1月16日 2時) (レス) @page32 id: c7173f4811 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あきいろ | 作成日時:2022年7月27日 20時