君を思う-12 ページ36
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『一体何を、』
「少し配線を弄らせてもらったんですよ。本来の取引だけの予定なら、全部の明かりを落とすつもりだったんですけど」
跪く私に目線を合わせるように男がしゃがみこむ。
薄暗いトーンのかかった顔は艶やかだった。
「…この方が、皆が注目してくれるでしょう?」
心底楽しそうに笑う男にぞわりと鳥肌が立つ。
冷や汗が背中を伝って、口の中が乾く。
「このゴンドラ、爆弾が仕掛けてあるんです。時限式で、今この明かりを落とした瞬間からカウントダウが始まるようになってるんです」
シー、と口元に指をやる男につられて息を潜めると、僅かに電子音が聞こえた。
一定のリズムで刻まれるそれは、この男の言う通り爆弾、なのだろうか。
強制的に突きつけられた終わりへのカウントダウンに心臓がばくばくと音を立てる。
「ふ、死にたくない?大丈夫、爆発まではまだ時間があります」
くっと、銃口を顎に添えられて男と目が合う。
こんな状況なのにこの男は恐れることもなく、本当に楽しそうに笑うのだ。
どうする、どうすればいい。
考えても考えても今この状況を破る術は思いつかない。冷静になれてないのが、自分でもわかってるのに。
「そうだな…さっきの質問の答えはどうでも良いな。交換条件、でどうです?」
『交換、条件…?』
男の問いに私もまた問いかける。
「君が僕の生きる価値になってくれる、というのであれば死ぬのは考えましょう」
『それは、どういう』
「今君の持つ全てを捨てて僕と一緒に来ないか、ということです。」
命が本当の危機に晒されているこの状況で、それは多分、とてつもなく甘い誘惑だった。
冷静になれない頭では、心臓の音と電子音が必要以上にうるさく鳴り響いていて
「この状況では誰も助けには来ないでしょうし、もし死にたくない、というのなら何が賢い選択か…君なら分かりますよね?」
『わたし、は』
思わず差し出されたその手を取りたくなる。
けど、
_______もしあなたに何かあった時は…次こそ僕が必ず、助けますから。
あぁ、うん。
もう、その言葉だけでも十分だなんて
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『私は、あなたとは一緒に行けないし、行かない』
「…そうかい、それは残念」
そう言いながら男が立ち上がり、私の額に黒い鉄の塊が当てられる。
「それなら、用はないな」
バイバイ。
そんな抜けた声と一緒に銃声が鳴り響いた。
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山梔子(プロフ) - ミモさん» ミモさん、初めまして。コメありがとうございます。色んな感想をお持ちいただけて嬉しいです。よろしければこちらの続編も今とは少し違うテイストになりますが読んでみて下さい^^ (2019年6月14日 10時) (レス) id: 5b80796d59 (このIDを非表示/違反報告)
ミモ(プロフ) - こんなにもどかしい思いをしたり、ハラハラドキドキしたり、感動したり……。こんなにたくさんの感情にさせられた物語に出会えて、今とても幸せです。あなたに、あなたの書いた小説に出会えて良かった。連載お疲れ様でした。 (2019年6月13日 21時) (携帯から) (レス) id: 0c3426b0a6 (このIDを非表示/違反報告)
山梔子(プロフ) - リンドウさん» リンドウさん初めまして。唯一の楽しみとまで言っていただけるとは…本当にありがとうございます。長らくお待たせしてしまい申し訳なかったです。お付き合い頂きありがとうございました! (2018年11月22日 12時) (レス) id: 1444a1608d (このIDを非表示/違反報告)
リンドウ - 本当に素晴らしい作品をありがとうございました。山梔子さんの作品が唯一の楽しみで夢主ちゃんと降谷さん二人のもどかしい想いがついに結ばれて良かったです。お疲れ様でした!! (2018年11月21日 23時) (レス) id: 282d8947f2 (このIDを非表示/違反報告)
山梔子(プロフ) - 夜空。さん» 夜空。さん初めまして。コメありがとうございます!そう言われると書ききった甲斐がありました(^○^)次回作は宣言通り夏のお話を一つ、と書いているところですのでまたよろしくお願いいたます。 (2018年11月20日 1時) (レス) id: 1444a1608d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:山梔子 | 作成日時:2018年6月22日 12時