ほんの一瞬の夢を見る (ページ10)

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壬氏side

昼になり、食事の時間となった
自分の本来の席に座ることはせず、こっそり影からその様子を見る

「なっ…」

そこで目を疑う光景を見た

玉葉妃の後ろに控えるはずの薬屋が主上の後ろに控え
本来ここにいないはずのAが玉葉妃の後ろに控えている

穏やかな表情をしているが、玉葉妃も恐らく焦っているのだろう

一体、少し目を離した隙に何が起こったのか…

当の本人は堂々とそこに控えている
…久しぶりに毒に携われて嬉しいのだろう…きっと

何事もなければいいのだがとその場を見守る

威勢よく毒味をする薬屋と
堂々と毒味をする美しいAに皆が釘付けになっている

Aに毒味などさせたくない
Aをこれ以上見られたくない

でもこの状況を止めることが出来るのは主上しかおらず、
その主上は物陰に隠れる俺の様子を楽しんでいるように思えた

A「これ、毒です」

耳を疑いたくなるような事態が起きた
色っぽく羹を口にしたAがはっきりとそう言い残し、その場を立ち去った

大臣「嘘だろう」

Aの余裕そうな表情を見た大臣がその羹を口にした瞬間、倒れた

これはただごとじゃない
Aは無事なのか

俺はAの元へ走った

Aに何かあったら俺は生きていけない

「A」

A「月…いえ、壬氏さま？慌ててどうされました？」
「…久しぶりの毒で浮かれているのか」

滅多に外で俺の名前を間違えないAが一瞬だけ俺の名を口にした
…誰も見ていないのだから、その名前で呼んでくれてもいいものだが

A「ええ。もう最近は私に毒を盛る者もおりませんので…っ、壬氏さま！？何処へ？！」

そう笑うAは悔しいほど色っぽく抱きしめたくなる
それでもいつ誰が来るのか分からないこの場所でそんなことは出来ず、Aの手を引く

「Aが美味しそうに羹を食べるから、疑った大臣がその羹を食べ倒れたのだ。Aも毒の耐性があるとはいえ休むべきだ」

俺はAを自らの部屋へ連れていった

俺の身分を明かせば…Aの立場を明かせば…
こんなことにはならなかっただろうに

つくづくこんな自分が嫌になる