ほんの一瞬の夢を見る (ページ45)

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Aside

翌日、正門には多くの人が集まっていた
私もその一人だ

阿多妃さまが壬氏さまに淑妃たる証であった冠を渡した

周りの女官たちの中には泣いている者もいる
阿多妃さまは、たくさんの方に慕われていた…

ふと横を誰かが通り過ぎた
里樹妃さまだ

里樹妃さまは私の横を通り過ぎると阿多妃さまの前へたどり着いたが、転んでしまった

周りからの笑いをこらえる声に里樹妃さまは泣きそうになっている
そんな里樹妃さまに阿多妃さまは手を差し伸べた
そのお顔はとても優しく、私の大好きな阿多妃さまそのもので
里樹妃さまが少し羨ましく思えた

そして一通りの儀式を終え、その場からは少しずつ人が減っていく
私も早く後宮を出なければいけないけれど、今までのことが頭に過り、なかなか足が動かない
気がつけばその場に一人取り残される形となっていた

壬氏「探したぞ」

そこに来てくださったのは壬氏さまだった

壬氏「莫迦だなあ、今生の別れではないのだから」

壬氏さまは私を抱きしめてくれる

阿多妃「そうだぞ。会おうと思えば会えるところにいるからな」

正門の向こう側から先程後宮を出たはずの阿多妃さまが笑っておられた

壬氏さまに腰を支えられ、私も正門から後宮を出る

「阿多妃さま…」

阿多妃「もう"妃"ではないがな。さ、A行くぞ。早く用意をしなければ」

阿多…さまに促され、私は宮廷のある一室へ入る

水蓮「さてさて、準備をしましょうかね」

そこには数回お会いしたことがある五十路を超えた壬氏さまの侍女がいて、手際よく私の衣服を脱がし、華やかな衣服へと替えていく

水蓮「お綺麗ですよ、Aさま」

"さま"付けをされて少し恥ずかしい気持ちになるけれど、これも慣れなきゃいけない

阿多「さすが、似合うな」
「ありがとうございます」
阿多さまにも褒められて嬉しくなる

壬氏「俺が見る前に見るなんて」

後ろには壬氏さまが控えていた
いつぶりかの少し幼い反応に思わず顔が緩む

「壬氏さま、どうですか」

そんな壬氏さまに近づき、問う

壬氏「綺麗だ」

壬氏さまはそう言うと私に口付けをする

水蓮「坊っちゃま、Aさまの化粧が落ちてしまわれましたよ」

壬氏「す、すまない」

阿多「莫迦だなあ」

そこにはとても穏やかな空気が流れていた