ほんの一瞬の夢を見る (ページ39)

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壬氏side

話せば話すほど、Aという妓女に興味を持った
基本的に穏やかで綺麗な笑みを浮かべているが
薬屋の話になると時折、自然な笑みを浮かべる

そして"好き"と言った際には
妓女とは思えぬほど、まるで年相応の少女のように顔を赤らめた

もっと色々な表情が見たくなった

猫猫「Aのこと、気に入ったんですね」

毒見をしながら共に夕餉をとる薬屋がそう言う
気に入る…確かにそうかもしれないが何かしっくり来ない

猫猫「でも、Aには想い人がいますからね。カラダは売りませんよ。無理強いはやめてくださいね。まあ、出来ないと思いますけど」

「想い人がいるのか」

後半の言葉はさておき、前半のその言葉を繰り返し、心が傷んだ

猫猫「まあ、既に亡くなった方みたいですけどね。高貴な身分の方だったみたいですよ」

「そうなのか」

猫猫「禿時代に、お忍びできた高貴な方がAに一目惚れをして、ことに至ったそうです。禿でカラダを売るなんて前代未聞、やり手婆はカンカンでしたけどね。目もくらむほどの金子と、Aのこれからの妓女への覚悟を見てやっと許したくらいです」

「まて、禿時代ということは…」

猫猫「まだ十にもならない頃だったと思いますよ。どこにでもいるんですね、幼児性愛者」

その言葉にまさかとの予測がよぎる

猫猫「まあ、身寄りのない禿が高貴な方に嫁げるわけでもなく、やり手婆もその後、その高貴な方を出禁にしたのでその一度きりだと思いますが。Aは今もその思い出を綺麗なままにしたくて、絶対カラダは売らないんです」

酒を与えたからだろうか、薬屋は饒舌に語った
聞けば聞くほど、以前聞いたあの話が思い起こされてしまう

…………

帝「そういえばあの先帝(父)も1度だけ本気になった女性がいるらしい。まあ、身分の差か何かで下級妃にすら迎えることが出来なかったらしいが」

………

夕餉の時間が終わると、薬屋は部屋から出て行った

A「失礼いたします」

入れ替わりに入ってきたのは先程呼んでおいたAだ
相変わらず綺麗な笑みを浮かべている

先程の薬屋の話や、以前聞いたあの話が思い起こされるものの
やはり本人を目の前にすると、もっと色々な表情を見たくなる

「いくら出せば買わせてくれるのだ」

俺は彼女の顔に手を添えて思わずそう聞いていた