ほんの一瞬の夢を見る (ページ29)

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薬屋の憂鬱ページ29

猫猫side

A「猫猫！おかえりなさい」

壬氏さまに買われ宮廷官女…否、壬氏さまの侍女となった
初出勤のため、壬氏さまの執務室に向かうと
出迎えてくれたのは見慣れた顔だった

「A！？」

彼女の名前はA
後宮の下女で、いつもどこからともなく現れては雑用を手伝ってくれた

たまにどこから貰ってきたのかと不思議に思うほど高級な点心を持ってきてくれては小蘭と3人で仲良く食べていた

確かにあれほどの美貌と立派なメロンがあれば、どこかの宦官が貢いでくれるかもしれない
初めは変な薬が混ぜこまれていないか警戒していたが、Aが持ってくる点心には、そんなこともなかった

A「良かったあ、また会えたわ」

Aはわたしにぎゅっと抱きつく
うっ、胸にメロンが…

壬氏「A、薬屋はそれくらいにして、私を褒めてはくれないのだろうか」

いつどこから現れたのか、壬氏さまがつまらなさそうに立っていた
高順さまも後ろに控えている

A「猫猫を戻してくださり、ありがとうございます」

Aは私から離れ、壬氏さまにそう笑いかけた

壬氏「それだけか？」

壬氏さまはAに迫る
なんだ、この甘ったるい雰囲気は…

A「今は人がおりますので」

壬氏「誰も居ないだろ。なあ」

壬氏さまは高順さまと私を見る
高順さまは明後日の方向を見た

私も倣う

なんだ、どういうことなんだ

壬氏「もう終わりか」
A「続きは夜に」

明後日の方向を向いてしばらくした後、
そんな会話が聞こえゾッとする
…何も聞いていない聞こえていないと心を無にする

A「猫猫、今日はたくさんお話しましょう！猫猫の好きそうな点心も用意しておいたから」

「え、あ、ああ…でも仕事が…」

この状況についていけない
何故後宮の下女であるはずのAがここにいるのか
それに下女の格好でも官女の格好でもない
高貴な衣服を身にまとっている

A「ねえ、水蓮、今日どこかで私と猫猫がお話する時間をつくってくれる？」

水蓮「かしこまりました」

「わあっ」

どこから現れたのか、五十路をこえているであろう下女が現れた

水蓮「水蓮だよ。よろしく」

どうもわたしの上司になる人らしい

A「じゃあ、猫猫！あとでね！」

Aは衣服はいつもと違うものの、いつもと同じトーンで部屋を出ていった

壬氏「はあ、やっぱり戻すべきではなかったかもしれない」

その傍ら、壬氏さまがため息をつき、高順さまが哀れんだ目で見ていた