ほんの一瞬の夢を見る (ページ19)

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壬氏side

本当は、もうここに通うことを辞めると伝えたかった
本当は、後宮から出れるよう手配をすると伝えたかった

それなのにそんな表情を見てしまうと、言えなくなってしまう

高順「壬氏さま」

俺が伝えようとしていることを分かっていた高順がそれとなく促す

「今回の件は私の失態です。申し訳ありませんでした。本当はもうここには通わないこと、そしてA妃の望むよう後宮から出すために尽力するのが、私に出来る償いだと思っています。」

"後宮から出す"その言葉を発したとき、周りに控える侍女の表情が少し明るくなったように見えたが、A妃の表情は変わらなかった

「ですが…正直私は、A妃を手離したくない」

周りの侍女が困惑しているのがわかる
A妃を見ればA妃も少しだけ困惑の表情に変わっていた

A「それは…私が役に立つ駒だからでしょうか」

A妃には薬屋とは別に後宮で起こった問題の見解を聞いていた
薬屋と違い、自由に動き回ることは出来ないため、あくまでも見解を聞くのみだったが、その見解はいつも正解に等しかった

だけれど、俺が手離したくない理由はそうではない

もう随分と前に自分の気持ちには気がついていた
だから、駄目だとわかっていても、高順に止められても
こんな事件が起こるまで通うことを止められなかった

「私がA妃を…お慕いしているからです」
俺は気持ちを伝えきることにした

A「っご冗談を」
「冗談ではありません。半年、お時間をいただけませんか。半年でA妃の気持ちが私に傾かなければ、A妃を後宮から出せるよう手配いたしましょう」

これは賭けだった
帝の承諾は先の謁見でもらっているようなものであり
あとは俺の覚悟とA妃次第だ

A「その賭け、受けてたちましょう」

A妃は今まで見せてくれたこともない、自然な笑みでそう答えた

思わず顔が赤くなる
余裕が無い俺に対し、A妃は余裕そうなのが悔しい

「それでは、今日のところはこれで失礼します。お身体、お大事になさってください」

そう微笑むも、A妃は表情を崩さない

A妃を必ず手に入れよう

俺は来た時より軽い足取りで自室へ戻った

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1年後
猫猫「なんかやけに今日は慌ただしいな」
やぶ医者「知らないのかい？皇弟が妃を迎え入れたんだよ」
猫猫「へー、そうなのか。あ、A妃さま今日で後宮から出るんだったな。行かなきゃ」
やぶ医者「嬢ちゃん、走っちゃだめだよ」