ほんの一瞬の夢を見る (ページ2)

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壬氏side

A「どうぞこちらへ」

案内された部屋はとてもいい部屋だった
彼女が今どのような位置にいるのかは知らないが
少なくともその服装、振る舞い、通された部屋から
高級妓女の部類ではないかとわかる

A「…猫猫を呼びましょうか？」

少しの沈黙のあと、声を発したのは彼女だった
その穏やかな表情は俺のことを忘れているのだろうか

「君は俺を忘れたのか」

A「…色々なお方のお相手をさせて頂いておりますが、お客様のような綺麗な方は初めてお会いしました」

微笑み崩さず、そう答える彼女

「…立派な妓女になったのだな」

そう一言発すると彼女の瞳は揺らいだ
仕事上、人の表情を読み取ることには少々長けていると思う

彼女はあのときの彼女に違いない

A「お酒を、お持ちしましょうか？」

彼女は微笑みを戻し、立ち上がろうとする

「待て」

そんな彼女の腕を俺は引いた
俺の腕に彼女がすっぽりとおさまった

A「っ、何をお望みでしょうか」

それでも俺の目をしっかり見て彼女は問う

「君が欲しい」

A「…お客様は猫猫をお望みなのでは？」

先程までの行動をこれほど後悔したことはなかった

「俺が望むのは君…Aだ」

腕の力を強める
どうすれば伝わるのか

「A、ずっと会いたかった」

彼女は俺から初めて目を逸らした
その綺麗な顔に手をあてこちらに顔を向け、口付けをした

A「貴方さまはずるいですね。わたしは貴方さまのお名前すら知らなかったのに」

彼女が俺を認めた瞬間だった
瞳にたくさんの雫をためて

A「莫迦かとお思いになるかもしれませんが…ずっとお待ちしておりました」

先程の妓女の微笑みではない笑みでそう言う彼女をとても愛おしく思った

「…その、Aはもう客をとっているんだよな」

なぜもっと彼女を早く見つけられなかったのかと悔しく思う

A「なんてお顔をされてるんですか。妓女ですからお客様の御相手はしておりますが…わたしはカラダを売ってはおりません」

彼女がカラダを売っていようが気にしないつもりだったが
この言葉は俺を嬉しくさせた

「…じゃあ俺がAの最初で最後になってもいいか」

A「わたしの最初も最後もそこそこの金子が必要になりますが…」

「本当に立派な妓女になったんだな」

A「その言葉だけがわたしの頑張る理由でしたので」

俺はそう綺麗に笑う彼女を押し倒した…－