05.静けさに揺れて ページ5
目が覚めた時、そこは見知らぬ天井だった。身体を起こし痛む身体に目を遣れば、着ていたスーツはラフなスウェットとTシャツに、所々に散らばる傷口には軽く手当が施してあった。
「……ここは、?」
憶えているのは、昨夜出会った細身の男だ。
────昨日。とある事件の片をつけ、ふらりと立ち寄った夜の公園でひと休みしようかとベンチへ腰掛けた。日頃の度重なる不摂生が祟ったのか、獲物を捕らえるが為に奔走した結果、疲れた体はガソリンを抜かれた車のように指一本も動かせはしなかった。
次第に瞼が重く感じて、徐々にその瞳を覆い始めようと……、
「うわ、アンタ大丈夫、ッスか」
「!?、」
したところで、ソレは俺に意識を投げ出すことを許さなかった。ちらりと声の方向へ視線を遣ると、焦り顔な色白の青年がこちらを覗き見ていた。初めこそ、シカトを決め込もうと黙っていたが「救急車」、なんて零されてしまえば動かざるを得なかった。
「…頼む、」
「ッ……」
救急車なんて呼ばれて、事が大きくなってはこちらとしては大変面倒なんだ。一般人を巻き込む真似もしたくはない。頼むから放っておいて欲しい。そう青年を見上げると、彼はその瞳を揺らして、次第に諦めたように「わかった、」とスマホを握る手を下ろした。
(よし、)
了承の言葉に、ふと気が緩む。このまま彼が呆れて帰ってくれさえすれば、
「、でも流石に手当くらいは受けてもらいますよ。これだけは譲れねーっスから。」
……尽く。コイツは。自分の期待を裏切ってくれる奴だと心底ウンザリした。心の中で盛大に溜息を吐く。ここで手当を拒否する事で、言い合いになり騒ぎに発展してしまうのは避けたい。ならば大人しくコイツに従い出来るだけ早く事を済ませてしまった方が賢明だ。
横になれという男の言葉は無視をして、彼の車に乗り込んだ。シートに腰掛けると、身体は重く沈むようだった。公園から駐車場までの僅かな道のりでさえ息が上がる程、この身体は疲弊していた。
「…………、……、」
静かに揺られる車の中で、先程掴み戻した意識がまたこの手を離れようとしていた。どうやら、自分の意志とは裏腹に、この身体は休息を求めているようだ。
(しっかりしろ、……降谷零、)
心の中の葛藤も虚しく。静かな車の中で、俺は今度こそその意識を手放した。おやすみと、どこか遠くの方で聞こえたその声に、妙な心地良さを感じて。
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作者名:ゐるか | 作成日時:2018年5月20日 0時