３８．堪えきれない ページ38
「それでは、ごゆっくりどうぞ。」
ドリンクを運び終え退室したA。
フロントに戻る途中で、後ろから声を掛けられた。
「すみません。」
「っはい、ただいま……、って、なんだ安室さんか。」
「はは、一応僕もお客さんですよ。」
「いやまあ、それはそうなんですけど。なんか知り合いだと思うと、気が抜けちゃうというか。」
Aがそう言うと、安室は「ははは、」と笑った。
「いけませんね、しっかり業務に集中しなくちゃ。」
「仰る通りで。……で、何でした？なんか注文します？それか、設備不良とかありました？」
「いえ。なんとなく、姿が見えたので。つい。」
「業務に集中させる気全然ないじゃないですか。」
思わずツッコミを入れるAに、安室はまた声を上げて笑った。
「あはは、確かに。自分で言っておきながら。」
「本当ですよ。でもまあ、折角だし何か頼みます？サービスしますよ。」
「……そういえばここって、シャンパンもボトルで置いてありましたよね。」
「あーまってまって。それはさすがに、値段考えて。俺怒られちゃうから勘弁して。」
「はは、冗談ですよ。車で来てますし。」
「さすがに冗談であってくれないと困る。……で、どうします？。因みにポテトなら秒で出せます。」
「でしたら、そちらをお願いできますか。」
「はいはい了か……、ゴホン、すぐにお持ち致しますので、少々お待ちくださいね。」
にこり、とAは微笑んで、突如恭しい態度で応じる。それと同時に、スーツに身を包んだ中年男性が安室とAの横を通り過ぎていった。
「……っぶねー……、」
「っふ、」
その様子を見て、安室は肩を震わせながら笑いを堪えていた。
「……今の、本社のお偉いさんなんすよ……。しかも接客態度とかに超厳しい人。たまーにああやって様子見に、客を装って来たりするからマジで気が抜けなくて。」
「ああ、なるほど。そういう……ふふ、すみません、つい面白くて……。」
「ちょっともういつまで笑ってるんですか。ああもう、最悪、忘れてくれ。」
「普段はあんな感じで接客を？」
「……そりゃ、多少は猫被ったりもするでしょ。お仕事なんですし。」
「確かに、急に声色が変わりましたね。……ふふ、すみません……。」
堪えきれないとばかりにまた笑う安室の足元をげし、と蹴りあげた。
「いた、……お客さんに手を上げたらそれこそ怒られてしまうのでは？」
「手はあげてませんよ、手は。」
「やれやれ、口の減らない店員さんだ。」
続く (更新停止中)
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作者名：ゐるか | 作成日時：2018年5月20日 0時
