０３．褐色の意地っ張り ページ3
(う、わ…………)
人影の正体は、男だった。褐色肌に明るい髪色で、スーツに身を包んだ顔面偏差値の高そうな……所謂、イケメンといわれる部類の。しかしその男は、その端正な顔を歪ませて、短い呼吸を繰り返していた。
(よく見りゃ、着てるスーツはところどころ擦り切れてるし、身体中に細かいキズも多い。……まあ、何かあったのは一目瞭然、だけど、)
｢うわ、アンタ大丈夫、ッスか……ちょっと待ってください、今救急車…ッ、｣
ガシリ、強く腕を掴まれる。
｢！？あの、｣
｢余計な…、余計な真似をするな。これくらい、何とも、｣
｢ねーわけねーだろ、ッ馬鹿なのかアンタ、こんな状態で｣
掴まれた腕が軋む音がした。
ギリギリと力強く握られた腕に顔を顰めて、反射的に目の前の男を睨みつけると、視線が交わって、男と目が合った。
ぐらり。視線の絡む先で男の瞳が大きく揺れたのがわかった。
｢…頼む、｣
｢ッ……｣
｢……、｣
｢…………………………、っだー！わかったよ！｣
ガシガシと頭を掻いてスマホを閉じると、目の前の男は疲労に歪ませたその顔に、僅かではあるが安堵の色を示した。
｢、でも流石に手当くらいは受けてもらいますよ。これだけは譲れねーっスから。｣
ほら、とりあえず立てますか？、と手を差し出せば｢馬鹿にするな、｣とそれは呆気なく振り払われた。と、同時に立ち上がった男の身体が前後に揺れバランスを崩した。
｢っわ、っぶねえ…………ほら、意地になってねーで捕まってくださいよ、｣
グイ、と男の片腕を自身の肩にまわす。おい、とかやめろ、とか聞こえた気がしたが、無視して歩き出してしまえば、それも次第に聞こえなくなって大人しく隣を歩き始めた。
車まで移動し、後部座席に男を座らせる。横になった方が良いと促すも、男は決して首を縦に振ろうとはしなかった。どこまでも意地っ張りな奴だな、と思ったが仕方ないと諦めてAは運転席へと乗り込んだ。
5分程走らせて、バックミラー越しに男を見る。その姿を目に捉えた途端、Aはその顔を緩ませた。
｢……だから横になった方が楽だって言ったのに、｣
腕を組んだまま俯いてピクリとも動かなくなった男に、降ろす時が大変そうだ、なんて頭を軽く悩ませたAだが、まあなんとかなるかと考えることをやめた。
小さく｢おやすみ｣と呟いて、車は夜の街を走り続けた。
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作者名：ゐるか | 作成日時：2018年5月20日 0時
