13.本業 ページ13
「いやー、美味しかった……!」
「喜んで頂けて嬉しいです。連れて来た甲斐があった。」
「そりゃあもう。大満足。」
「それは何より。」
2人並んで店を出た所で、安室はさて、と切り替えた。
「そろそろ帰りましょうか、ご自宅までお送りします。」
「あ、ありがとうございます……!」
Aは礼を言って、そのまま助手席に乗り込んだところで。……ふと、ずっと考えていた疑問が口に出た。
「あの、」
「はい?」
「あの時は結局聞けなかったんですけど……、安室さんって今、」
「探偵業をしてるんです。」
「え、?」
「僕の本業です。とある事件の依頼で、詳細は守秘義務により伏せさせてもらいますが。……以前の怪我のことでしょう?貴方が気掛かりだったのは。」
……鋭い。流石探偵業を営むくらいだ。しかし自分が知りたかった答えを、意外にもあっさりと答えられて、拍子抜けしている自分がいる。
「それ以外では先程お伝えしたポアロという喫茶店でアルバイトをしています。と言っても、最近は殆どそちらの仕事ばかりになっていますが。」
「へぇ……、」
安室の回答にAは相槌を打った。
「なるほど、ありがとうございます教えて下さって。……でも、思ってたよりも普通の人なんだと思って安心しました。」
「僕が普通じゃない人間だとでも思っていたのか。」
「え、まあ、割と。」
「おい。」
「うそうそ、冗談です。」
「はあ……全く。」
呆れたように溜息を吐く安室に、慌てて弁解する。
「いや、だって、出会いが出会いだった訳だし………。」
安室は一瞬驚いたような顔をしてAの顔を見た後、当時の自分の姿を思い返して、「それもそうだ」と苦笑した。
「まあ確かに、僕からすれば貴方との出会いは印象的でしたがね。」
「俺からしたらアンタとのファーストコンタクトは衝撃的過ぎたよ。」
「ははっ、それはすみません。」
笑い声を上げながらも謝っているように見えない安室の様子を見て、Aは苦笑いした。
それから暫くして、車はAの自宅アパートの前で止まった。
「今日はありがとうございました。」
「いえ、こちらこそ。」
「今度は喫茶店にお邪魔しますね。ええと、たしか…」
「ポアロです。」
「そう、それ!楽しみ。」
Aは笑顔でそう告げると、シートベルトを外した。
「では、また。お休みなさい。」
「お休みなさい。」
そう言葉を交わしてから、Aは車を降りようとしたのだが。
「待ってくれ。」
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作者名:ゐるか | 作成日時:2018年5月20日 0時