Sewing needle and shears (ページ10)

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10話ページ10

逃げようと片足を一歩後ろに退げた瞬間目の前の人形はゆっくりと体を動かしてこちらを向き、小刻みに震え始めた。僕はぼんやりとそれを見ていた。『人形が動いた』ということに対してのショックがあまりにも大きすぎる。だが人形の片目が内部から勢いよく押し出され、黒い手が顔を突き破るのを見た途端僕は金切り声をあげてその場から逃げ出した。

　振り返ってから誰もいないことに安堵した直後、足を滑らせて勢いよく転倒する。ぶつけた箇所だけでなく脇腹の辺りも痛い。ひょっとしたらここまで全力を出して走ったのは今が初めてなんじゃないか。
　視線を右に向けると階段が見える。何も考えずに走った割に運がいいと思いながら階段を半分降りて手すりからおそるおそる下をのぞく。誰もいない。そのまま右を見ると踊り場にカメラが落ちているのが見え、足早に近づいて拾う。どこも壊れてはいないようだった。

　再度、誰もいないことを確認してから下の階へ降りて右へ曲がると物置のような部屋を見つけた。万が一すぐに逃げられるようドアは開けたままで中に入り、いくつかのダンボール箱が置かれた棚の陰に座って拾ったカメラを眺める。映像は残されているだろうか。いや、残されている。何故かそう確信した。

　深く息を吸ってゆっくり吐く。そして僕は意を決し、カメラの再生ボタンを押したーー

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