Sewing needle and shears (ページ8)

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8話ページ8

ぬいぐるみはそれぞれ不規則的に置かれている。壁際に座っているものもあれば通路の真ん中に横たわっているものもある。奇妙だと思った。普通は客の通行の邪魔になるような場所には置かないはずだ。ただでさえ視界が悪くなっている中で転んで怪我でもしたら大変だということは生まれてこのかた一度もお化け屋敷というものに入ったことのない僕でも分かる。
　目の前に転がるぬいぐるみをどけようと思ったが、またもや『触ってはいけない』と謎の警告のようなものを感じた。手を近づけるほどゾクリと悪寒が走り、指先が痺れる感覚を感じる。警告が鳴り響く。『絶対に触るな。触ればお前は後悔する』。僕は手を引っ込め、爪先が僅かにでも触れぬようそうっとぬいぐるみをまたいで足を進めた。散らばるぬいぐるみは不思議なほどどれも同じ姿をしていた。

　気がつけばまたあの部屋の前にいた。だがどこもかしこも紫なのだから方向が分からなくて当たり前だと特に気にしなかった。
　一瞬迷った挙句、もう一度部屋に入る。ぬいぐるみは今も変わらず壁際に置いてあった。それを見て安心する。同時に心底馬鹿馬鹿しくなってきた。僕は何を怖がっていたんだ。アニメやゲームの世界でないかぎりぬいぐるみが自分の意思で動くはずはない。廊下に転がっていたのだってただのぬいぐるみだ。怖がる必要なんてない。

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