Sewing needle and shears (ページ3)

今日:8 hit、昨日:0 hit、合計:3,878 hit

3話ページ3

そうだ、父さんは『優しくなかった』わけじゃない。ただあれが父さんのやり方だっただけだ。だから他の奴とは違う『良い子』になれた。ゲームが欲しいとヒステリックに駄々をこねる同い年の子を冷めた目で見ることも出来た。
　学校では友達が出来ず、いつも一人ぼっちだった。それどころかいじめられもした。13歳になった今でも力では到底奴らに敵わなかった。
ある時、頬に痣を作って帰ると父さんに何かを投げつけられたことがある。拾ってから冷えたタオルだと気づいた。あまりの不器用さに何度思い出しても笑ってしまう。
ふと思うのは、本当に父さんは死んだのかということだった。それほど時間が経っていないとはいえ今更何を言ってるんだと思うが、思い返してみれば父さんの葬儀に出たことはない。

　
　さっきから父さんのことばかりだ。あまり考えすぎると『他所の家のガキみてえに甘えるな』と怒られるだろうか。いかにも父さんの言いそうなことだ。
　僕は歩調を速めた。ぼうっとしている場合ではない。視線を横に向ければ紫の光を放つ電飾を引きちぎりたい衝動に駆られるので脇目も振らず足早に進む。自分は今まで何をしてたんだ。馬鹿みたいに感傷に浸って時間を無駄にするなんて。こんなところさっさと出るべきだろう。まずはそれが何よりも優先すべきことじゃないのか。

4話→←2話