Sewing needle and shears (ページ20)

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19話ページ20

「なんだ、ほつれてたから直したのに外しちまったのか」

　突然の声に正面を向くと手を伸ばせば届く距離に長髪の男が立っていた。服装と言葉の内容からすると先ほど僕が死んだふりをしていた時に見た人に違いないがそんなことはもうどうでもいい。大事なのはこの男が廊下の奥から約1秒でここまで移動したというあまりにも人間離れした事実だった。

「デカい方の連れはどうした。逃げたのか？」

　クリフのことか。それよりも……

「なんで……」

「ん？」

「えっと、だって、廊下の奥から一瞬でここまで来たんだよね？」

「は？」

　男は訳が分からないとでも言いたげに首を傾げ、一度自分の背後を見た。

「奥は行き止まりだけど？」

「え？」

「俺は部屋から出てきた」

　ほらここ、と指差した壁には確かに内側に開け放たれたドアが存在していた。

「俺が瞬間移動したと思ってたのか？」

「……うん」

　案の定笑われた。ああ、自分がどうしようもなく間抜けに思える。

「いやあ、安心したよ。ガキ一人でもいてくれてさ」

「友達も一緒だったけどはぐれちゃって」

「何しに来た？肝試しか？」

「そんなところかな」

　流石に馬鹿正直に『殺人鬼に会いに来た』とは言わなかった。

「あなたは？」

「病院抜け出してきた」

「病院！？」

「面倒くせえんだよ。人を異常者扱いしやがって。俺からすればあいつらの方がよっぽど奇人に見える。まあそんな奴らの所なんざもううんざりだったもんだからここに隠れてるわけだが」