Sewing needle and shears (ページ2)

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2話ページ2

歩き出してから何分くらい経っただろうか、段々と気分が悪くなってきた。たぶん紫ばかり見ていたせいではないかと思う。嫌いではなかったが延々と見続けさせられると流石に嫌気がさしてくるのは当たり前だ。せめて窓の一つでもあれば少しはマシになるだろうか。
　それにしてもいつになったら出口にたどり着くのか。もしかしたら二度とここから出ることは出来ないのだろうか。誰にも会えず一人きりで彷徨うことになるのか。そんなことを想像しただけで足元から冷えていく感覚を覚える。不安と恐怖で今すぐに泣き叫びたい衝動に駆られた。

「父さん……」

ここに来て初めて発した言葉だった。何故、母さんではなく父さんと言ったのかは分からない。『父さんは事故で死んだ』と母さんは言った。物心ついた頃には既に居なくなっていたような存在を何故今になって呼んだのか。それだけじゃない。父さんは決して優しくはなかった。それほどひどくはなかったものの僕は何度か暴力を振るわれた。母さんは泣き、僕は笑顔を作った。『俺の子なんだからお前はこれくらいで泣くような奴じゃねえだろ？』。僕はまた笑った。だって父さんは一度も僕のことを『嫌い』だなんて言ってないんだ。そんなに強く殴られていたわけではない。父さんはちゃんと『手加減』してくれていた。

ここへ来て父さんの名前を呼んだのはきっと、一人で恐怖を感じているよりは何倍もマシだと思ったからだろうか。いや、そうに違いない。
僕は父さんを愛していた。だからこそ『死んでよかった』なんて思わなかった。父さんもちゃんと僕を愛してくれていた。だから助けてくれるはずだ。だって僕は嫌われないように頑張ったんだから。

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