episode. 9 ページ9
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急な出来事に困惑するも、足元に縮こまっているお兄さんを見れば拒否する気は起きない。何から隠れたいんだろうと思いながらさっきまでいた通りを向く。
「本当にこっち？もうどっか行ったんじゃないの？」
「や、もうここしかない！いるはず！」
アスファルトに鳴る靴音が近付いてきて、やがて姿を現した若い二人の女性と目が合った。
私は彼女たちへ特に思うことはなかったが、彼女たちからすれば私は道とも呼べないような暗く狭い場所に何も持たず一人で佇んでいる変人だ。それに気付いた時には遅く、二人の女性は引いた表情で顔を背けた。
「やば……」
「ちょ、早く行こ」
足早に立ち去られ、なんとなくショックを受ける。
絶対変な人って思われた。別にあの人たちとはもう会うことはないだろうしいいんだけど、でもなんか……好きで入ったんじゃないのに……。
もの悲しい気持ちを引きずったまま、通りに出て見回してみる。しかし人の姿は見えなかった。
「お兄さん、誰もいないみたいですけど、何から隠れたいんですか？」
暗がりに紛れているお兄さんと向かい合うように私もしゃがんで聞いてみる。
「行った？ほんならええねんけど……」
お兄さんが帽子の位置を整えながら顔を上げ、そして、私の顔を見て吹き出した。
「……え？」
「ごめっ、いや、笑ったらアカンねんけど、あははっ」
楽しそうに笑い続けるお兄さん。
私は何故笑われているのかがわからないので戸惑うしかなく、よく笑っているお兄さんを見つめる。
はぁ、と区切るような息を吐いて、滲む目元を拭いつつお兄さんは口を開いた。
「悪かった。ごめんな盾にして」
優しい笑みに目を細めて、まだ少し揺れている声色で囁かれる。
言いたいことがいろいろと浮かんだ気がしたけれど、どれも言葉にならなかった。
「さっきの子たちに追い回されててな。あの子らが来たらここに隠れようと思っててんけど、先に君が来たから咄嗟に引き込んでしまったわ。巻き込んでごめんな」
重なる謝罪を受けて自分が黙り込んでいたことを自覚し、私は首と手を同時に振る。
「いえいえ全然！大丈夫です！」
「そう？けど……あ」
お兄さんが唐突に、黒いマスクを下げる。
「お詫びとかできん代わり、にはさすがにならんか」
ふはっと吐息を漏らして笑う。困ったように下がった眉がお兄さんの掴みどころのない空気感を薄めていて、ひどく人間らしく感じた。
また喉の奥に声が引っかかった。
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作者名：冬楠 | 作成日時：2023年10月27日 22時
