episode. 8 ページ8
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梅雨に入り、雨が多くなってきた。そんな中久しぶりに午後から晴れたため、服を買いに行くことにした。
ショッピングセンターへ向かって街を歩いていると、遠くに人だかりがある。
そういえば最近この辺りでドラマか何かの撮影がされてるとか聞いたな。あの辺よく撮影で使われるしそれっぽい。
近く通らないようにルート変えるか。大通りの途中で折れ、人気の少ない細い道を進む。
しばらく歩いていくと、撮影場所と思われるところの裏側に当たる緩やかな坂道の端の方に、見覚えのある後ろ姿を見かけた。
見間違いかとも思ったが、その人との距離が縮まるほど推測は確信へ近付いた。遠目からでもわかる抜群のスタイル、帽子の下から出ている絹のような金髪、アシンメトリーな横髪。あの人でしかない。
「お兄さん？」
斜め後ろくらいから声をかけてみる。振り返った男性の金色の瞳と視線がぶつかる。思った通りお兄さんだった。
会えた嬉しさに笑んでしまいそうだったけれど、眉を動かしたお兄さんから当惑と躊躇と焦りを綯い交ぜにしたようなものを感じたので、なんとなく顔が引き締まる。
「え、なんでここに……もしかして、見に来た？」
「え？何をですか？」
お兄さんの抱いている感情の訳はわからないものの、一旦気付いていないふりをして聞き返す。
お兄さんは微笑んだが、纏っている優しい空気は外部を阻む壁のようだった。
「近くで撮影があるやん？あれを見に来たんかなぁ思って」
「ああ、なんかそうみたいですね。なのでこっちから買い物行こうかなと思って。遠回りにはなるんですけどね」
「…………」
淡白な眼差しでじっと見つめられる。感情が籠もっていないので意図が掴みづらい。なんならその瞳の美しさに気圧されてしまう。
私はどうしているのが正解なんだ……！
身動き一つ取れずにお兄さんの視線に晒され続ける。
「なるほどね」
軽い笑みを零したお兄さんの雰囲気が変わり、私はやっと呪縛が解けたような心地になった。
そうして気が緩み、無意識に尋ねる。
「お兄さんは見に来たんですか？ここから見えるとか？」
とても見えそうにはないけれど、質問されたことを考えるとありそうだと思って言った。お兄さんが向いていた方向を首を伸ばして眺めてみる。
――突然ぐいっと腕を引かれて人がぎりぎり通れるくらいの狭間に連れ込まれ、日陰の暗さを感じた次の瞬間、お兄さんはしゃがみ込んだ。
「立ってて！隠れさして！」
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作者名：冬楠 | 作成日時：2023年10月27日 22時
