episode. 14 ページ15
.
「そぉか。いい意味ってどんな？」
突っ込まれるとは思っていなかったので、急ぎ感覚を言語化するべく脳内にある表現の引き出しをひっくり返す勢いで開けていく。
「えっと、いい感じに大人っていうか、接してて大人だなーって思うんですけど、お兄さんって言葉が似合う若々しさもあって……でもちゃんと大人っていうのが、大人としていいなって思います」
語彙が貧弱すぎる。大人って何回言った？こんなのでちゃんと伝わったんだろうか。
「ふぅん。それが俺ってこと？」
「はい」
「……へえ」
口数は少ないけれど、嫌そうな雰囲気はない。どちらかというと嬉しそうだ。
頑張った甲斐があった。湧き上がる感情のままに笑みを浮かべる。
センラさんがマスクを口元から顎の下へやり、はあ、と息を吐いた。暑さに耐えかねてか、思案していることがあるのか。重たげな吐息の悩ましさを、色っぽい方に感じてしまって、思わず目を逸らした。
「俺も大学生やったけど、ほんまにお金なかったわ。Aちゃんは苦労してへん？」
まだ動揺を落ち着かせているところ、話しかけられてしまった。私は取り繕った笑顔で誤魔化しながら言う。
「結構波がありますね。友だちと遊ぶ期間はめっちゃなくなりますけど、そうじゃない期間は普通です。服買うのは年中我慢しなきゃなのでつらいですけど……」
「服なぁ。確かに、おんなじこと言うてるやついっぱいおったわ」
「あはは、いつでも一緒なんですね。みんなバイトしてて、光熱費と服と遊ぶお金に悩んでる」
「男は食費もやな」
「あー、めっちゃ食べる人は大変そうですよね！」
男友だちが似たようなことを言っていたのが脳裏に蘇って笑ってしまう。
するとセンラさんが探るような視線を向けてきて、なんとなく空気が変わる。
「そーゆー奴がおるん？」
「……男友だちが言ってました。全国の美味しいものの取り寄せにバイト代全部つぎ込んでるって」
質問の意図を一瞬考えたけれどわかりそうになかったので、その友だちの発言を思い出しながら話す。
ふ、とセンラさんが笑みを零した。
「それはすごいな」
まるで表面をなぞったみたいな口調が、本音は違うところにあるんじゃないかと思わされずにいられなかったけれど、優しい笑顔を前に、追及は憚られた。
こういうの、大人って感じだ。
再認識した次の瞬間、予想だにしない言葉を耳にする。
「もしあれならご飯奢ったげよかなって思っとったけど、余計なお世話やったか」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 243人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：冬楠 | 作成日時：2023年10月27日 22時
