episode. 2 ページ2
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そのままロックを解除するかと思いきや、男性がじろりとこちらを見てくる。
「奥行って。ドア閉まらへんねんけど」
「あ、すみません」
すぐに数歩下がると、やがて目の前で自動ドアが閉まる。男性はそれを確認した後、機械に触れた。
自動ドアが開く。男性が真っ直ぐこちらへ近付いてくる。
「これでええ？」
ため息をつきながら面倒くさそうに言われる。
私は男性に向かって頭を下げた。
「すみませんでした。疑ってごめんなさい」
「……いや」
少し戸惑ったような声が降ってくる。顔を上げてみれば、男性はなんだか困った顔をしていた。
目が合った途端に逸らされたので、謝り足りなかったかと再び頭を下げる。
「本当にすみません」
「いや、もうええって」
慌てたように言われ、顔を上げると思いのほか近くに男性の顔がある。目が綺麗だな、という感想が脳裏を過った。
不意に男性の表情が真面目なものに変わる。
「なんか顔色悪ない？そういや歩き方変やったし、体調悪いん？」
「え」
言われて酔っていたことを思い出し、気持ち悪さが体内に渦巻く。思わず胸元を押さえて俯いた。
「ちょっと……お酒を飲みすぎてしまって」
なんとか伝えられたが、正直やばい。この人にこれ以上迷惑をかけるわけにはいかないし、一刻も早く部屋に行かなくては。
別れを切り出そうとしたところ、男性が何やらごそごそと動いているのが視界に映った。
「これ飲むとええよ。俺もよく使ってんねんけど、めっちゃ効く」
差し出された手には、2粒が1セットになった錠剤が乗っていた。急な親切に少し驚きつつ笑顔を作る。
「ありがとうございます」
受け取って、一応アルミ包装の裏面を見た。薬の名前らしきカタカナが印字されてある。
「見たことない？市販薬やねんけど」
「そうなんですね。ありがたく使わせていただきます」
さっき友だちにもらったペットボトルの水をバッグから取り出し、早速飲んでみる。ペットボトルをしまって男性に向き直ると、男性は何故か釈然としない顔をしている。
「警戒心なさすぎちゃう？さっきまであんな警戒しとったやん自分」
「え？これ薬なんですよね？」
「せやけど、そういうことちゃう……えー、知らんで飲むんか。すごいな」
謎に感心されている。そんなに薬を飲んだのが意外だったのだろうか。
全然特別なことなんかないのにな。
「変な人じゃないってわかりましたから」
そうでしょ、と言わんばかりに笑ってみせた。
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作者名：冬楠 | 作成日時：2023年10月27日 22時
