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店の中は廃墟のようにシンとしており、耳をすませばシーンという音が聞こえてくる。
仕事中に珈琲でも飲もうかな、と思ってしまうほど暇だ。
すると扉に付けていた鈴が音を鳴らした。扉が開いたということだ。
扉付近に目をやると、高校生ほどの男性が震えながら店の中を見回している。
「いらっしゃいませ、お客様は何をご要望で?」
愛想良く笑いながら近づいていくと図太い男の悲鳴が店の中に響く。
最近の人はビビリが多いな。
「……お前、ホンモノの魔法使い?」
歯を食いしばりながら睨んでくるお客。それが人に物を聞く態度なんですかね。
「ええ。
あ、もちろんタダでは通りませんよ? そこはご注意を」
媚びの微笑をお客に向ける。
こうでもしないと売れるものも売れないからね。
笑顔は商売には必須だ。
お客はゴクリと喉を鳴らす。
それはそうだ、
金持ちが大金を払ってまで会いたいと言われる魔法使いが目の前にいるんだからな。
耐えようにも耐え切れず、笑みが口角に浮かぶ。
「俺を殴ったアイツを消せ、あと元々いないようにしろ」
お客は僕に命令するような態度でそう言う。だから、それが人に物を頼む態度か。
というか殴っただけでそんなコアなことするのか。
罪悪感というものはないのか?最近の子はおぞましい。
「……その願い、確と聞き取りました。
__また後日改めて私からお客様の元にお伺い致します。」
お客の男は願いを叶えてもらえることが嬉しいのか、気持ち悪い笑みを浮かべている。
それを見て笑いそうになるのを、口の中を奥歯で嚙むようにし堪える。
「では、又のご来店をお待ちしてます」
僕がそう言うとお客は扉を乱暴に開けて出て行った。
お客がいなくなった店は静まり返っていた。
あー、静かだ。
あの男のアイツってどれくらい酷いことしたんだろ。人間の価値観はちょっと不思議だからなぁ。
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作者名:アルル・エリ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/
作成日時:2018年12月26日 20時