年下上司に振り回されています-fmkn

健人25 ページ28

…




契約が決まった、ということは。
すなわち健人さんの下につくことの終わりを意味する。



明後日、もう一度打ち合わせが済んだら。ちょうど1ヶ月で。



私の教育係は健人さんから菊池さんにバトンタッチだ。




そして、その日はあっという間にやってきた。





オセロチョコCMの予算や第2弾の打ち合わせも順調に進み。
健人さんはCM撮影までを菊池さんと私に託し、次のビスケットのCM契約に携わることになった。



オフィスのエレベーター。
二人だけの、空間。
そこに、少しだけいつもと違う空気が流れる。



「この先は、菊池と頑張ってね。」


「はい。」



心なしか、いつもより、健人さんの距離が遠い。


もう22時近い。

フロアには私達しか残ってなくて、それがまた寂しさを加速させていく。



「頑張ります、健人さんが教えてくれたこと忘れずに。」


「うん。それに…。」


「え？」




健人さん瞳が、せつなく揺れて。




「1か月菊池についたら、そのあとどうするか決めるんでしょ？」


「…そう、ですね。」




確かに課長に言われてる。どの仕事をしたいか、希望を伝えてくれと。




「白、黒、どっち？」


「へ？」


「なんてね。」



健人さんの手が、ちょっと躊躇ってから私の髪に触れて。


熱量を含んだ瞳にとらえられて、私は健人さんのことしか考えられなくなっていく。




「俺のこと、選んで。Aちゃんのこと、待ってるから。」



まだ菊池さんについてないのに。
今、すごく健人さんと離れたくないって思ってる。

細やかな気遣いを忘れない健人さん。仕事に没頭して食事とるのも忘れちゃう健人さん。まっすぐで、嘘偽りのない心の綺麗な健人さん。



私、健人さんのこと…たぶん…。




「これ、お餞別。」


「え…あ、ありがとうございます。」




いつも健人さんが食べてるのと同じミント味のタブレットを、すっ、と差し出してくれる。




「名残惜しいけど、いつも通りにしよう。…じゃあね。」


「健人さん、ありがとうございました。私、頑張ります。オセロチョコのCMが完成するまでにどれだけ成長できるのか分からないけど。私なりに全力を尽くします。」



答えは、それから出せばいい。

心に、蓋をして。


私は、部下として。健人さんに笑顔で精一杯の感謝の気持ちを伝えた。



「お疲れさまでした！」



こうして。
私と健人さんの1ヶ月は幕を閉じた。


デスクの荷物をまとめて、明日から菊池さんの隣にお引っ越しだ。

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