ひとつの秘密

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『さ！帰ろ帰ろ〜！』


｢待てって。｣







勢いよく立ち上がり、
一気に距離をとったわたしを引き止める彼。









風磨はわたしの告白に、｢ごめん……｣ と一言だけ返した。




それが全て。







なのにどうして引き止めるの？









『なに？』






泣いちゃいけない。




ここで泣いたら負けだよ、わたし。








だいすきな風磨を困らせたくないんだから、
ここは笑って振り切って、友達でよろしくって言わないと。









｢泣くなって……｣







風磨の言葉を受けて思わず自分の頬に手をやれば、とめどなく涙が流れ続けていた。







風磨のおっきな手のひらがわたしの頬を目掛けて近づいてくるのが分かるけど、彼にわたしの涙を拭わせる訳には行かない。









これは自分で止めないと。









前に進めなくなってしまうから。









彼の手を振り切り、自分で涙を拭って。









『泣いてないよ！ほら！』









真っ赤にした説得力のない目で笑いかけることが
今わたしに出来る精一杯だった。







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結局一言も話さないまま、彼はわたしを家まで送ってくれた。








振った女をしっかり家まで送り届けてくれるなんて、そういう所もだいすきだなあ、って。









何考えてるんだろ、ほんと。









もう風磨のことは諦めなきゃいけないのに。









『ありがと、送ってくれて。誕生日もお祝いしてくれて嬉しかった。 じゃあまた、バイトで。』







｢おう。 また、な。｣








またバイトで、なんて言ったけど
当分会いたくないなと思ってしまうのも仕方が無いと思う。







明日はわたしだけシフトが入っていたけど、確か月曜日は風磨と一緒だったかな。









あと2日で心が入れ替えられますように。







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