この美しい世界に【轟焦凍】 (ページ4)

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彼女は話を締めたようだが、本来の目的は果たされていない。

「で名前は？」

「もう断ったから聞かなくてもいいんじゃない？」

「中学からの知り合いなのに、名前を知らない自分自身に驚いた」

すると彼女は一瞬きょとんとして、けらけら笑い出した。それが段々とヒートアップしていき最終的には声を思いっきり立てている。

「まあ私たちは普段話すときも名前を使ってないからね。仕方ないんじゃない。」

まだひーひー腹を抑えながら目尻に浮かんだ少量の涙を拭っている。
なにがそんなにも面白いのか。

「実際私も君のことを“轟くん”とかしか呼んでいないから、下の名前知らないよ」

「…そういうものか」

「そうそう…でも、せっかくだから轟くんの下教えて」

「焦凍」

「しょーと？」

頷くと、変わった名前だと彼女は呟いた。
そうなのか。自分の名前に意識を向けたことなど無く、言われたこともなかった為その言葉は新鮮に感じる。

「お前は？」

「山田花子」

「へえ」

お前も変わった名前だな、と言えば何故か彼女は噴き出した。今度は足をじたばたさせて。

「食事中に下品だ」

「ごめんごめん、我慢できなくて…」

そう言いながら再度肩を揺らしている。
中々収まりそうにない。

「お前のことは中学から知ってるが、理解できないことの方が多いな」

「…それが普通じゃない？」

彼女の様子に呆れ混じりに小さく零せば、彼女は律儀にそれを拾って答えを返す。
その時には既に笑いは止まっていて大真面目な表情だった。喜怒哀楽のスイッチもわからない。

「人は誰かと本当の意味で仲良くなるには、物凄い時間がかかる。でも表面上のものだったら人によってはすぐなれるんだ。それでも轟くんは表だけじゃなくて、ちゃんと私を見てくれてる」

人差し指をぴんと立て胸を張って彼女はそう言う。喋りながら指でくるくると小さな円をかいている。だから轟くんが私の事がわからなくても仕方ないんだよ、と何故か嬉しそうに笑った。

「さて、今回の授業のまとめは」

彼女はこほんと咳払いをした。
どうせまとめと言っても十中八九あのことだろう。目に見えた答えに、どう反応すれば良いのだろうか。

「やっぱり世界には人がいっぱいだから、みんなと知り合いになりたいよね」

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