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 数年が経ち、私はもういつの間にか高校1年生になっていた。私は母に頼み込んで
高校の間に留学をできる学校に行かせてもらった。もちろん母子家庭でそんな豪華な
学校に行けるなんて夢にも思ってなかった私は嬉しくて仕方なかった。それと同時に
私は父にそのことを伝えたかった。父の電話番号は知っていた。父も私の携帯番号は
知っていた。けどこの数年、1度だって連絡は来なかった。やめようと思ってたのに
いつの間にか私は父に電話をかけていた。

「もしもし、久しぶり」

「はいはい」

「あのね、高校受かったんだ」

「良かったじゃん」

「今度さ、その高校のこといろいろ話したいから、会いたいな」

「仕事ない日、連絡するよ」

「ありがとう」

「んじゃ」

「うん」

 なんてそっけない会話しかしなかったけど私は久々に聞けた「はいはい」にすごく安心した。
だってそれは私が知っているやつよりもずっとずっと優しい声だったから。父はしばらくしてから
仕事のない日を私に連絡してきた。私たちは日付を決めて夜ご飯を食べに行くことにした。

 当日、別に父に会うだけなのに緊張している私がいた。父が改札から出てくるとすぐにわかった。
父は私を見て「大きくなったね、でもまだお父さんには届かないね」なんて笑いながら言うから
思わず私は泣きそうになりながら「一生かかってもお父さんには届きません」って笑った。

 あの時いた怒ってる父はもうどこにもいなかった。ただただ優しい父がそこにいた。
私は自分の中学の時のことや、高校はね...ってたくさん父に話した。父は相変わらず
「はいはい」って話を聞いてた。けどその日はやけにその返事が嬉しかった。

  離婚って聞いた時は一生分泣いたんじゃないかってぐらい泣いた。父が本当に
本当の意味で家に帰って来なくなることが嫌だったから。冷たくはあったけどそれでも
父と母と祖母とみんなで食べたご飯は美味しかったから。記憶になんかないけど私が
赤ちゃんの頃の写真では父も母もみんな笑ってたから。もうその写真が撮れないんだ、
食卓を囲めなくなるんだ。私にとっては辛いことだらけだった。



 でも、今はそう思わない。


 だって私の横でいま父は笑いながら大きいビニール傘をさしてるから。

 だって玄関を開けたら母が「おかえり」って笑って出迎えてくれるから。

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作者名:yozora | 作成日時:2021年10月12日 16時

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