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 そしていつの間にか私もいつの間にか小学校6年生になっていた。私、母、祖母はいつもの様に
ご飯を食べ終え自由に過ごしていた。私は幸せだった。みんなで楽しく過ごせていたから。祖母が
自室に戻ってしばらくした頃だった。その日、母は頭痛がひどくてご飯の後は部屋で寝込んでいた。
私は1人でリビングにいた。そんな時、玄関のドアがゆっくり開いた。

「ただいま」って。

 私は急いでタオルを渡した。ずっと待っていた父。私は嬉しさのあまり
母にすぐに知らせ、父には「なんか食べる?でも濡れてるからお風呂先?」
なんて一生懸命話しかけた。父は私に「お母さんは?」って聞くから私は

「頭痛いんだって。2階で寝てる」って答えた。

 父は階段を登り母の寝ている部屋に入ってお小遣いが何だ、離婚届が何だ、
と喧嘩を始めた。私は母が体調悪そうにしているのを見て母を庇いに部屋に入った。
私はどんなに冷たくても、どんなに怖くても、父のことも母のことも大好きだった。
けどその日、その瞬間、私は父を嫌いになった。

「今まで帰って来なかったのに、お母さんに怒んないでよ」

 そして思わず泣きながら叫んだ。

「出てってよ」って一言。

 ずっとずっと帰ってきて欲しかった父は帰ってきて早々に体調の悪い母の元に行き
怒鳴って喧嘩を始めたのだ。私には耐えられなかった。父が帰って来なかった数年の間、
母は私を1人でずっと育ててくれた。どうしてそんな母が今怒られているのか。私には
理解ができなかった。

 私が「出てってよ」って泣き叫んだ時の父の顔はまだ覚えてる。何とも言えない苦しい表情。
どんなことがあっても父の娘は私だけだったから。その娘に「出てけ」と言われたか
そりゃ悲しいに決まってる。

 父はその後、すぐに部屋から出て行った。玄関の開く音がして私は初めて自分が父に
酷いことを言ったのだと気づいた。急いで下に駆け降りて、私は玄関を開けて傘立てをふと覗いた。
そこにはいつもうちにはない大きなビニール傘があった。私はその場で大泣きした。
私が使うには大き過ぎるビニール傘は間違いなく父のだった。先も見えないほどの大雨の中、
父は傘を置いて家から出て行ったんだ。私は自分の言った消しゴムじゃ消せない言葉を
どんなに消したかったか。


 

*→←大きなビニール傘



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作者名:yozora | 作成日時:2021年10月12日 16時

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