輝く月のように 5 (ページ3)

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どこかで練習生をしていたという噂は本当のようで、ダンスの覚えも早くスキルも高い。けれど、男女差は筋力と体力で現れた。今日の稽古終了の言葉に身体を引きずりながら壁際までたどり着いたかと思うとそのままぐったりと壁に凭れて呼吸を整えている。荒い呼吸と流れ落ちる汗は誰よりも激しい。

深澤「帰れる？」
A「っ…はい」

頷いたAを確認して身なりを整えてレッスン室に彼女を置いて帰路についた。

辞めるんじゃないか、と言うやつもいる中で彼女は毎日レッスン室に現れた。ただ1週間も経ったのに彼女が話す相手は居ないに等しい。時折、分からないところを俺やふっかに聞いたり、逆に俺たちが彼女に注意することはあれど会話は無かった。昼食時間も彼女はふらりと姿を消し、再開の時間前にはまたふらりと姿を現した。

そして今から彼女のソロ曲のレッスンが始まる。振り入れは既に終わっているようだ。アウェイの空気間、彼女は立ち位置についた。

一言で表すならば圧巻。圧倒的な歌唱力だけではなく歌を自分のものにする表現力、どれをとっても彼女はJrの中では群を抜いていた。正直言ってデビューしている先輩たちでも彼女には負けてしまうのでは、と思わせるぐらい。

滝沢「正直、技術的な面では指導することは無いかな。ただお前のことを好意的に見るお客さんは少ない。それは頭に入れておきなさい。幕が上がったらどんな事があろうと止めてはいけない。show must go on、うちの事務所のモットーだ」
A「…はい、ありがとうございます」

非情にも聞こえる滝沢くんの言葉を理解しているのか彼女は感情の読めない顔で頷いた。