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A「蒼弥！」
NHKホールの廊下で紙袋片手に駆け寄ってきたのはAちゃん。あの恐怖の事件以来初めて会う。いつもと変わらずふわりと微笑むAちゃんの顔色は良い。
猪狩「Aちゃん、大丈夫なんですか？」
A「えぇ、大丈夫よ。この前は本当にごめんなさい、そしてありがとう。蒼弥が受け止めてくれなかったら大怪我してたところだったって阿部ちゃんから聞いたの」
あの日、紙のように真っ白な顔のAちゃんを受け止めたことは先輩たちに会うたびに感謝される。受け身も取れないまま倒れていたら頭を打って大変なことになっていたかもしれない。不謹慎だけど俺自身はちょっと役得だって思ったり。
A「これお詫びとお礼。HiHiのみんなで食べて」
猪狩「まじっすか？ありがとうございます」
A「みんな、よ」
猪狩「…え？」
いま3人で活動していることをAちゃんも知っている。なのに、まるで謹慎中の2人も含めてという言い方に戸惑ってしまう。
A「2人のことを庇うつもりは無いの。ただメンバーには味方でいてあげて欲しいの。こういう仕事をしているから悪いことをすれば一般の人以上に批判される。それこそ的外れな誹謗中傷もある。だから、彼らの傍にいてあげてね」
猪狩「……」
Aちゃんが倒れた理由は公にされてないけど、友人が亡くなったことが原因だって察してる。それも、ネットの誹謗中傷から心を病み自ら命を絶った。だから、いま謹慎中の2人が気になるんだろうけど、自分の身から出た錆なのだから批判されるのは当然だ。それが顔に出ていたのかAちゃんは苦笑を漏らした。
A「怒るなってことじゃない。むしろメンバーなら誰よりも怒らなきゃ。そして、待ってる、味方だと言ってあげて。………わたしは…言ってあげられなかったから」
言葉を震わせ、涙の膜を張った瞳は瞬きをすると白い肌を流れていく。先輩の、しかも女性の涙にどう対応して良いか戸惑いながらも白魚のような華奢な手を包み込む。鼻を啜ったAちゃんはごめんね、と泣きながら笑った。
A「私に言われる前にやってるよね。でもね、もうあの時言っておけば良かったって後悔したくないの」
猪狩「いや……2人にも渡します。で、Aちゃん泣かすなって言っときます」
A「あはは、それ伝えたときの反応教えてね」
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作者名：はながたり | 作成日時：2022年12月13日 23時
