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自然灯は姫に魔法をかける ページ22

季節外れの花火はボク達の足元を薄暗く幻想的に照らす。


「綺麗だねぇ、」


どこか人形めいた程美しい笑みを魅せる彼女に君の方が綺麗だよなんて月並みな言葉しか思いつかなくて、花火を見つめながら小さく肯定の唸りをあげた。

彼女は気づいてくれただろうか。




線香花火をしよう、なんて言ってAはボクの家に上がり込んできた。

携帯端末はもう12月の半ばを示しているし、何よりここは雪国だった。花火は蒸せるような暑さと屋台の匂いと浴衣とうなじと共にあるのがいい。


「テンプレートすぎるんだよ、雪の中の花火なんて言うのも一風変わって幻想的で素敵じゃない?」


作り物のような彼女の自然な笑みに叶う術をいい加減手にしたいと思いながら読んでいた本に栞をはさみ、重たい腰をあげた。
嬉しそうにボクの腕に絡みついてくる彼女を嫌いになれたらどれだけ楽なことだろうか。

火事にだけは気をつけなさいよ、とだけ言って1式用意してくれたボクの母にどうして危険だと止めないんだという視線を送りつつも家を出る。
花火だけは彼女の自前だった。しかも3セットもある。


「どうしてそんなに残ってるの、って言いたいんでしょ?」


どうやら彼女にとってボクのことなんて単純明快で馬鹿みたいでつまり何でもお見通しらしい。


「2つはこの日のために置いておいたの。一つは余り。」


その余りは多分、彼女の想い人とするはずだったものだ。
少しだけ悲しそうな顔をする彼女の顔を見てられなくて、早くやろうと声をかけながら花火の入った袋を開ける。


「やっぱり優しいねえ、そういう所だいすきだよ」


笑う。つられてボクも笑う。

彼女は線香花火に火をつけて、その儚い命を見つめながら口を開いた。


「私ねえ、そうやって実は優しいところとかね、実はめちゃくちゃモテてるのになーんにも知らない鈍感なところとかね、ぜーんぶ、ぜんぶ、」


"だいすきだよ"って言いたいんだろう?


(うるせえよ、"俺"は、お前のこと、ずっとずっと昔から大好きなんだよ!抱きしめたいし、キスだってしたいし、それに、)


「ふふ、」


笑う。つられて"俺"は笑えなかった。


「やっと本当のこと言ってくれた。」


線香花火が落ちる前に、キスをしよう。



(王道的恋愛)

日本での冬の花火は空気の乾燥や枯葉の多い時期であることなどを理由に火事を起こす危険性が高く余り好まれません。

人魚姫パラドックス→←黒に映る赤



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作者名: | 作成日時:2015年8月15日 20時

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