はなびらダイアリー (ページ20)

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笑顔はときに薔薇をも砕くページ20

呼び出された。ご丁寧に2回、3回と名前を呼ばれる。

「何かした？」
「…そんなつもりはないんだけど」
「まあ取りあえずいってらっしゃい」

昼食のサンドイッチを片手にひらひらと手を振る彼女は、私を呼び出した男の彼女だった。それは今彼女の隣にいる友だちもクラスメイトも、誰も知らない。
知るのは本人たちと私だけだ。

面倒だとは思いつつも男のいる生徒準備室のドアをノックしてから入る。脚を組んでこちらを見据えていた。

「…生徒指導でもないのにココ使っていいんですか、」
「榊原先生に借りたんだよ、あの先生優しいから」
「…ていうか私何もしてないですよ」
「知ってるだろ、」

この人はいつも何もかも端的に済ます。授業でもそう。大事なことを言って終わり。そのわかり易さとルックスから殆どの生徒からは大人気。現代文を教えていて、私や彼女の所属する2年E組を担任している。仲原隼人先生。

「…知ってますよ、偶然見たんです。カフェで。」

この人の前では嘘も感情も何もかも見透かされることを私は先生の彼女経由で知っていた。

"あのひとは、何でも分かるのよ。学問だとかそういう知識でもない、未来のような科学的なものでもなくてね。そういうのってただ知識を詰め込むだけじゃない。彼は違うの。彼に好意を寄せている人だとか、そういう感情のこと。彼自身がそういうのを分かってしまうの。"

そんなニュアンスのことを、彼女はよく言っていた。そして最後に私の好意も彼にバレちゃったから付き合ってくれたのかも知れないねと飾りたいほどの笑顔で笑うのがお決まりだった。

「先生、」
「ん？」
「煙草をやめてください。それから、お酒の多量摂取もやめてください。」
「おー、酷い言われようだなあ」

先生は、笑う、嗤う、わらう。

「先生、」
「ん？」
「あの、」
「言っておくけど俺は禁煙禁酒するために努力してるからな。カノジョが嫌だなんて言うから。」

彼女と瓜二つの笑顔でわらう。
どうやら彼女が言っていたように、先生は本当に何でもお見通しらしい。