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花束には煙草を添えて ページ13

教授というものはもっと貫禄のある年老いた男が多いイメージを勝手ながらに持っていた。
それはきっと昔父の書棚から取り出して読んだたくさんの本の影響からだろう。(稀に若い女性や男性がそうであるというような設定もあるが、それはあくまでフィクション上のものだと思っていた)

私が見つけたその植物園のような温室に居座っていた男は、とても優しそうでけれども何かをもう諦めているような、そして世界を見据えているような瞳をする若い男だった。
いつ訪れようともそこにいる男はまるで、入口のアーチに雁字搦(がんじがら)めにされている真っ赤な薔薇のその刺々しさに閉じ込められているようである。


今日も今日とてやってきた私を追い払うことはせず、むしろこちらへと抱き寄せ小さくキスを落として優しく笑ったその男の抱えている闇を私は知っていた。
知っていて、それでもなお知らないふりをしたのだ。

『無知は罪だ』という人がいるように、私は無知のフリをすることによってその罪を被り続けている。


私を抱き寄せながら笑う彼を見て、どうしようもなく彼の首を締めたくなった。
あなたがそれを背負うよりも、それこそ死んでしまったほうが全ての人が楽になるのよ、と。

その男性にしては細く華奢でまるで陶器のように白くて、そうしてはいるけれども男性であることを象徴するかのようにくっきりの見える喉仏のある首。
それをぐっと、くっきりの赤い線がついてしまうくらい締め付けてやりたかった。


「ねぇ、」


彼は細い首からまるで本人のように消えそうな声を上げた。
私はじっと彼を見つめる。瞳が揺らいでいた。


「君が僕に聞かないこと、知ってるんだよ、」


ほうら、そうやって知らないふりをするのに気づいてしまう天才。
彼に愛を伝えるには残ってしまうものよりも消えてしまうものの方が良い。
ほら、だから花束には彼の好きな煙草を添えればそれはそれは、。

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作者名: | 作成日時:2015年8月15日 20時

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