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第六話 ページ6

こんな近くで整った顔を見て
普段とは違った緊張がこみ上げる。




「アキと申します。
おたの申します」



深々と礼をすると
慌てたように男性も頭を下げる。



こういうところには慣れていないのだろうか。



先ほどまでの外での
堂々とした立ち居振る舞いとは
全く別の人のようだ。




「江戸の歌舞伎座で役者をしている
梅原裕一郎です」




ここまで丁寧に自己紹介をしてくれる人も珍しい。





「アキさんですね、
突然ですが「志乃」という名前に
お心当たりはありませんか?」




志乃というのは妹さんの名前だろうか。




「いいえ、申し訳ありません」




ここの店の人たちは
全員把握しているつもりだけれど
志乃という女の子はいなかったはず。


もちろん源氏名を使っているから
本名を知らない子も多いんだけれど。




「そうですか…」




明らかに残念そうな顔をして
どこか遠くを見つめている。


その姿さえも美しい。




「誰かお探しですか?」



本当はお客さんの事情に
深く踏み込むのはよくない。


ただ私は何も言わずにはいられなかった。




「はい、生き別れた妹なんです」






あんまり悲しそうに笑うから
私まで家族のことを思い出して
悲しい気持ちがこみ上げてくる。





「大切な妹さんなんですね」


「はい。
早くに両親を亡くして
今では唯一の肉親なんです」



現在の家は歌舞伎の名門だけど
子どもに恵まれず
養子をとることになったらしい。



歌舞伎の世界に女は入れないから
妹さんだけはどこかの遊郭に
引き取られていったらしい。




私はその境遇を自分と重ねて
自分の過去に思いを馳せていた。




「アキさんはどうしてこちらに?」




話題を変えようとした梅原さんは
ここがどこだったのかを思い出して
急にバツの悪そうな顔になった。




「妹さんと同じです
ここの女の子はみんなそんなものです」




お客さんに深入りするのはご法度
遊女の過去を探るのも
良しとはされていなかった。



ただ梅原さんは
何もかもが他とは違っていた。



ここがそういうところだと
わかっているはずなのに
梅原さんは一向に手を出そうとしない。



私としてはそのほうが好都合なのだけれど。



その後も梅原さんはただ世間話をするだけで
明け方にはお付きの人を連れて
帰っていった。

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Ritu(プロフ) - flowerさん» 私も大好きなんです!お仲間さんだ! (2017年9月28日 23時) (レス) id: 34e9386414 (このIDを非表示/違反報告)
flower(プロフ) - Rituさん» ありがとうございます!SolidS大好きです(*´ω`*)ほぼ毎日きいてますよ! (2017年9月28日 18時) (レス) id: 1b5420c9a1 (このIDを非表示/違反報告)
Ritu(プロフ) - めっちゃ面白いです!あとあんま関係ないんですけどSolidS好きだったりしますか…? (2017年9月26日 21時) (レス) id: 34e9386414 (このIDを非表示/違反報告)
flower(プロフ) - フルパら@桃林檎さん» ありがとうございます!学校が始まってペースが落ちるかも知れませんがよろしくおねがいします!! (2017年9月14日 20時) (レス) id: 1b5420c9a1 (このIDを非表示/違反報告)
フルパら@桃林檎(プロフ) - もうっ、面白すぎてっ、続きが楽しみすぎるんですーーーーーーーーーーーっっ!!!!! (2017年9月13日 19時) (レス) id: 9ad6441d61 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:flower | 作成日時:2017年8月15日 9時

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