TRAUMEREI【梅原裕一郎】

第四十一話 ページ41

ＵＭＥＨＡＲＡ’Ｓ ＳＩＤＥ


体の弱かった志乃は
遊郭での仕事に体が耐え切れず
俺が見つけ出すより先に
病で死んでしまっていた。




とても悲しかった。




けど心のどこかでは
こうなることがわかっていたのかもしれない。





あるいはずっと離れていたせいで
亡くなったという実感がわかなかったのかもしれない。





不幸な人生だったけど
最期は店のみんなに看取られて
笑顔で亡くなったと聞いて
少しだけ安心した。





「気晴らしに女でも買ってみたらどうです？」




川村の旦那さんの
見え透いた営業は無視して外に出ると
あたりはすっかり暗くなっていた。




ほんの興味本位で籠の中を覗いてみるけど
心のどこかで志乃のことを探していて
女性の顔を見てもその面影を探していた。




いないことはわかっているけど
なぜか少し落ち込んで
顔をあげた瞬間に一番奥にいた人と目が合った。



今まできれいな人は何人も見たけど
その人たちは違って
一瞬で心を奪われた。





それでその店に入って
周りに反対されながらも
ようやくその人に会えたんだけど
ずっと芝居をしてきた俺は
そういうことに興味はあっても
手を出す勇気はなくて
話をすることしかできなかった。




女を買いに来るような
不誠実な男だと思われたくなくて
妹を探しに来たなんて嘘をついた。




本当は触れたいのに
手を出して嫌われるのが怖かった。




最初は一緒に話をするだけで満足だったのに
気が付けばどんどん欲張りになって

自分は触れることさえできないのに
他の男は触れられる。



そのことに我慢ならなくなって
強引に自分のものにした。




それでも関係が崩れるのが怖くて
いつまでもこのまま留まろうとする俺は
きっと誰にも負けないくらい
意気地なしだと思う。

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