君を想う〜第1章…3

106 ページ6

撮影が始まると、彼はいつも通りだった。







予想通り…







モダンな中庭での外撮影もあって…







2人は撮影用の軽装に着替えた。





寒いだろう…





特に寒さに弱そうな登坂さんは大丈夫だろうかと目を向けると…






ぱちっと合った視線。






彼は、“ちょっとだけすみません”そう周囲のスタッフと今市さんに断りを入れると私の方へと駆け寄って来た。







「登坂さん？どうかしました？」





「うん。持ってて欲しいものがあって。」
そう言うと、彼はモゾモゾとパンツのポケットから手袋を取り出して…


「これ、着けて持ってて。」
そう言った。



「え？」



「モコちゃんに足りない装備１つだけ見つけたから。それに、隆二ばっかのモコちゃんじゃん？…これでも寒かったら、中入っててね。」



そう言って、スタッフさん達の元へ戻っていく彼の背中をしばらく見つめる。








そして撮影が始まったのを確認して…







手の中の手袋をそっとはめた。







大きくてブカブカの手袋は…







中が、モコモコしていてとってもあったかい。









「…何時間でも外にいられそう…」









火照る頰を今市さんのマフラーに埋めながら…









「35過ぎの女が乙女か…」

自分を戒めるために呟く。








恋愛経験が乏しいからって、こういう優しさで勘違いしてはいけない。



同じ過ちを繰り返さないように…



それに、35を越えてからの失恋は、もう人として立ち直れる気がしない。



「…この歳の女が、恋愛の傷を恋愛で癒すのは、結構大きな賭けだよ、燈護…。」



ブツブツ言いながら…







…岩田さんと今市さんの気まぐれと登坂さんの思わせぶりとも言える行動を…





…今後どうしていけばいいんだろう…






撮影を見ながらぼんやりとそう思った。

107→←105

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す