君を想う〜第1章…1

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隆二side






宛のない人探しで廊下を進むと、いつもLive前にパフォーマーがアップするのに使っている部屋の前を通り過ぎる。







ドアが開いたままの部屋からは…







…いつものように直人さんが市野辺さんをからかう声。







…直人さん、またやってる…








通り過ぎようとした、その瞬間だった。









『…つーか、お前、飴舐めてんの珍しいじゃん。俺にも一個ちょうだい。』
そう言った直人さんの言葉に立ち止まった。





「…久しぶりに舐めたかも。」
感情が伺えない市野辺さんの声。






「何？喉の調子でも悪いの？」







「…ううん。別に。舐めたかっただけ。」







「ふーん。で？俺の分は？……あ？隆二？何してんの？そこで？」








廊下で突っ立っている俺に気づいた直人さんの声に反応した市野辺さんが俺を振り返った。









…









…









飴…市野辺さんが？









「…いや…あの……その飴って…」
もごもごと動いている市野辺さんの口を指差した時…









彼女は、表情を変えずに俺に言った。









…









「今市さん。今日もいつも通りです。頑張りましょう。」









言葉が出ない俺より先に反応したのは直人さん。
「は？何？何当たり前のこと言ってんの？何かあった？」






クエスチョンマークが飛び交う直人さんをチラッと見た彼女は









「別に。特に変わったこともなく、また1日が始まるから、いつものように、命を懸けて歌いましょうってだけのことです。」





そう言うと…ほんの一瞬だけ口元を緩ませて、俺とすれ違うように部屋を出て行った。









…









…









「今日のラッキーパーソン…俺…。」

手に持っていた飴玉をキュッと握りしめた俺の口角は、彼女よりもっと上がっていたに違いない。

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