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隆二side
優平さんは…静かに話し始めた。
「父が…どうしてあんなことをしたのか…
今では知る由もありません。
あの日、父は慌てた様子で帰って来て、母に“実家に帰って、俺を待て。”そう一言だけ言うとすぐに出て行ってしまったそうです。
普通ではない父の様子に…
…母は、慌てて父の言うことに従った。
父がしでかしたことを知ったのは、
1週間後…警察が母の実家に尋ねて来た日です。
それからは…
大変でした。
…犯罪者の妻と息子になった訳ですから。
その後の生活は思い出したくもありません。」
苦笑いの優平さんは一呼吸置くと、テーブルの上に置かれたままの紙切れをそっとAに押し返した。
「図々しいのは承知でお願いです。本来の…持ち主にお返し下さいませんか？自分が行くべきでしょうが…もうその体力も気力も…私にはないんです。」
そう頭を下げた優平さんに…
Aは動揺することなく静かに答えた。
「…残念ですが……本来の持ち主の…梧平さんの親友のご家族は……阪神淡路大震災で亡くなられていました。……これを受け取る人はもう誰も残っていないのです。」
ハッと顔を上げた優平さんは、なんとも言えない表情で考え込んだ後…
「…では……これは、琴平さんがしてらっしゃる慈善事業に全額寄付します。」
真っ直ぐに、そう言った。
『…優平っていう名前は、父が“平凡でもいい、優しい子供に育って欲しい。ちょっとでも、親父のことを忘れずにいてもらうために、俺の名前の一字も入ってるし、良い名前だろ？”そう言って付けた名前です。
この名前を何度恨んだか分かりませんが…
…今は結構気に入ってるんですよ。』
そう話した優平さんの言葉に…
Aは、ふわっと微笑んで
静かに頷いた。
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作者名：◎まる◎
| 作成日時：2018年10月23日 20時
