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岩side
気づいてもらえっかなー…
もくもくと上がる赤い狼煙をぼーっと眺めていた時だった。
「…剛典、みーっけ。」
頭上から聞こえて来た声…
「Aさん…。」
きっと、ホッとした顔になったと思う。
俺を見たAさんは優しく微笑んだ。
「これは…1人じゃ登るの無理だね。」
そう言ってえぐれた土壁を覗き込むように見ているAさんに近づこうと立ち上がって2、3歩進んだ時…
「ストップ!!剛典怪我してるの!?」
慌てたようなAさんの声と、ザザって上から降りてくる音。
「…え?Aさん降りたら、上がれないじゃん…。」
驚いた俺に
「他にも、心強い仲間いるでしょう?そんなことより、怪我してるのにここで1人は心細いよね。ほら、悪化したら困るから、座って。」
そう言って…
俺の手を引こうとしたAさんは、咄嗟的に手を引っ込めた。
「…あの……ごめん。」
自分の行動に、自分自身で驚いて、申し訳なさそうに俯く彼女。
いつも自信に満ち溢れていて…
男の俺でも格好良いと思ってしまう彼女が…
下を向くなんて、俺には無理。
「…Aさん?」
「…ん?」
「…手、貸してくれる?俺、Aさんの手を貸して欲しいんだ。」
俺の言葉に…
少し潤んだ瞳でふふっと笑った後…
そっと手を差し伸べて…
その手を自分の肩に回して、俺の腰辺りを支えるように掴んだAさん。
硬くなった身体からは緊張が伝わってくる。
彼女は、最初から自分の身体が嫌いだったのだろうか?
それとも…
彼女の身に何か起きてそうなってしまったんだろうか…
…
ふと思い出したのは、あの経済誌の
『5年前のクーデター』
あそこに何かヒントが隠されているのかもしれない。
そんなことを考えながら、彼女の介助で元の場所に腰かけた時…
「…一雨くるな…。」
そう言った彼女の顔を見ると、
綺麗な横顔は、空を見上げていた。
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作者名:◎まる◎ | 作成日時:2018年9月27日 12時