眠そうな吐息 ＊K.m＊ ページ16
家に帰れば、健くんはカーペットにころころをかけながら、おかえりと言った。ひたすらころころ。わたしが百均で買ってきた安っちい白いころころ。
「ただいま」
『遅かったじゃん』
「ごめん、ちょっと羽目外しすぎた」
『夜遅くに女の子一人で歩くのあぶないんだから気をつけなよ』
「うん、ごめん」
そう言ってトイレに行った健くん。追いかけようかと思ったけど、そのまま隣のバスルームに入ってストッキングを脱ぐ。わたしはもう女の子ではないし、今日は短い可愛いスカートではなくてロングスカートを履いている。いつもわたしがまっすぐ家に帰ってくるからとは言え、そんなに心配しなくてもいいのに、なんて思ってしまった自分を絞めてやりたい。気持ちを受け取ってもらえないことは物を受け取ってもらえないより悲しいのだから。それを知っているのに知らないふりをするのは、すこぶる卑怯なのに。そう思うと一気に罪悪感が湧いてくる。
わたしは仕事が終われば、すぐ家に帰ってくるのがルーティーン。仕事柄、職場柄仕事終わりにご飯や呑みに行くことは忘年会とかの機会を作らないとなかなかなくて、だいたい仕事が終われば家の近くのスーパーやドラッグストアに寄って食料品や生活雑貨を仕入れて帰ってくる。だから、健くんはわたしのスケジュールをほぼ知ってる。冷蔵庫横に貼ってあるカレンダーになんでもかんでも全部書いちゃうから。昼間に仕事がある日は、7時くらいにはもう帰っているのを知ってるし、遅出の時はお昼過ぎまでずっと家にいるのを知ってる。 だからなんだ、ってことはないし、彼は彼で仕事に行ってジムに行って遊びに行って買い物に行って自由にしているけど、わたしがいないときは外に食べに行ったり。気が向けばわたしに時間を合わせてくれたり。まるで自由な猫みたい。わたしは彼の仕事のことも時間も知らないけど、彼はわたしの仕事も時間も知ってる。なんだか不思議な気持ち。
バスルームの扉を閉じながら考える。彼がいる生活に慣れてしまった自分がいた。わたしは彼のパンツを洗濯しても特に何も思わなくなったし、彼はわたしが洗面所でブラを手洗いしてる横で普通に歯磨きしたりする。よく考えたら面白いくらい当たり前じゃないのに。扉の向こうでトイレのドアが開いて閉まる音。なんだか少し悲しくなった。
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しずく(プロフ) - Jうさぎさん» こんにちは。コメントありがとうございます。思考回路が単純なので褒めていただいたことが嬉しくて屋根壊すくらい飛び上がりそうです。大変な毎日にちょっとのきゅんきゅんは必要ですよね！わたしの妄想がみなさんのお役に立てば嬉しいです。また読みに来てください！ (2016年7月26日 15時) (
レス) id: 26c8642a63 (このIDを非表示/違反報告)
Jうさぎ - こんばんは。いつも楽しく拝見させて頂いてます。しずくさんの書くお話は、独創性と言葉の操り方がほんとにすごくて、内容を楽しみキュンキュンしながらはもちろん、その表現力のすごさに驚きながら読んでいます。ほんとにこのシリーズが大好きです！ (2016年7月25日 20時) (レス) id: 62cbef7481 (このIDを非表示/違反報告)
しずく(プロフ) - ななとっぽさん» こんばんは。感想嬉しいです。ありがとうございます！大人の包容力といいますか、不器用なところも含めて彼女が好きだよ、っていう坂本さんの裏設定があったりします。また読みに来てください！ (2016年5月1日 23時) (レス) id: 26c8642a63 (このIDを非表示/違反報告)
ななとっぽ(プロフ) - あわわわわ坂本さん読ませて頂きました！とっても素敵で綺麗なお話･･･うっとりほっこり（笑）季節の変化を恋人と分かち合えるのって幸せですよねふふっ！しかもそれが坂本さんなら尚更です！とっても素敵なお話ありがとうございました (2016年5月1日 20時) (レス) id: 6008096526 (このIDを非表示/違反報告)
しずく(プロフ) - ななとっぽさん» どうか体に気をつけて、心から笑える日までわたしはここで、微力ながらできる限りのエールを送ります。どうぞまた読みに来てください。待ってます。長文失礼しました。 (2016年4月19日 19時) (レス) id: 26c8642a63 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：しずく | 作成日時：2016年2月20日 22時
