その花の名は (ページ10)

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side:you

ダメだ、乾くんの顔がまともに見られない。
今日はたまたま関わる機会がなかったから良かったものの、明日にはまた今までどおりの対応をしなければいけなくなる。……うーん、無理！

須貝さんの言う通り、素直に受け取って素直に喜べばいいんだろうけど。立場とか、年の差とか、そういうどうにも埋められない部分が邪魔をしてくる。それにあの綺麗な顔！隣りに並ぶって考えただけで畏れ多い……

と、そのとき、テーブルの上でスマホが軽快な音を鳴らした。画面を見るとーーー

乾いつ空いてますか

どきんと心臓が跳ねた。
もしかしたらあれは冗談だったんじゃないか、っていう疑念はめでたく晴れた訳だけれど。こうなってくると、それはそれでどうしたらいいのか。

いつ、って、デートの日のことだよね。水族館に行くんだったら、1日空いてる日のことだよね。

AA来週の日曜、再来週の土曜、その次の週の土日が空いてるよ

スケジュール帳を確認して、たったこれだけの文を何度も推敲して打ち込んだ。手の震えと戦いながら送信ボタンを押して、返信を待つ。

乾じゃあ来週の日曜空けといてください

返事はびっくりする程すぐにきた。
わ、どうしよう、日程決まっちゃった。あと10日以上あるけど、その間どう過ごせばいいんだろう。何でもない顔できるかな。

……ほんとさ、冷静になろう。このところの私、舞い上がりすぎ。今まで人並みに恋愛もしてきた筈なのに、30手前にもなって"デート"の一言でこんなにも揺さぶられるなんて。

乾くんだから？私なんかじゃ手の届かない存在だと思っていた人だから？

ううん、きっと違う。ちょっとテンションが上がっているだけ。落ち着いて、A。大丈夫。明日からまた、今まで通りにできるから。だってそうでしょう、乾くんが私のことを好きな筈ないもん。

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side:sgi

ここ数日、Aと乾が話しているのをよく見るようになった。Aの話では今週末デートをするらしいけど、それにしてはどちらも平然としている。特にAは、もっといちいち動揺するのかと思ってたんだけど。

心境を聞いてみたい気持ちもあるけど、ここで水を差すのも悪いかなーと思って、そのままにしている。どっちからの状況も把握してるってだけで、自ら介入していく謂れはないからな。とりあえず見守るよ、お兄さんは。