その花の名は (ページ23)

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side:ini

その日の夜、オフィスを出られたのは21時過ぎだった。Aさんはとっくに帰っていたらしく、しばらく姿を見ていない。

電車に揺られながらスマホを開き、Aさんとのトーク画面を見たら、水族館に行く予定を合わせたところで話が止まっていた。そんなに時間は経っていない筈なのに、もうずっと前のことみたいな気がする。

あれから毎日、Aさんに視線を奪われては胸が締め付けられる。Aさんと話してる男全員、Aさんのことが好きなんじゃないかって思ってしまって、気持ちばっかり焦っていく。

早くしないと。Aさんを誰にも取られたくない。

乾今日、山本さんとお昼行ったんですか?

打ち込んで、校正もせず送信する。送った後で冷たい言い方をしてしまったような気がして取り消したくなったけど、すぐに既読がついたのでそれは叶わなくなった。その代わり、こんな早く既読つけてくれるの？って嬉しい気持ちが勝った。

AA行ったよ

返事はそれだけだった。余計なことを言わないのは、それ以上何もないからなのか、詮索されたくないからなのか。

山本さんがAさんのこと狙ってるかも、って疑惑は相変わらず晴れない。水族館行った日の服も山本さんが選んだらしいし、相談のるフリして距離詰めてくやつなのかも。残念ながら、山本さんには正面から向かって行っても勝てる気がしない。だから、俺が勝負するのは。

乾俺とも行ってください

side:you

「デートのお誘い、ってやつ…？」

自分以外に誰もいない部屋の中で、思わず口に出してしまった。水族館に行ったのはほんの数日前で、正直言うとこんな早くに次の一手がくるとは思っていなかった。

乾くんがどういうつもりなのか、本当のところは分からない。手を繋がれたことだって、「男として見てほしい」って発言だって、その後に逃げるように帰って行ったのだって、私の理解の範疇を超えている。

でも、もしこれが本当に次のデートのお誘いなら。

ーーーーー「そんなの両想いじゃないですか！付き合っちゃえばいいのに」

山本くんの言ってたことが、急に現実味を帯びてくる。そんなことを思ってしまう私は、自惚れているのかもしれない。けれど、自惚れさせているのは間違いなく乾くんだ。それなら、私のやるべきことは一つ。

AAもちろんです

私も前に進まなきゃ。

end.