その花の名は (ページ14)

今日:22 hit、昨日:0 hit、合計:8,411 hit

＊ページ14

side:ini

とうとうこの日が来てしまった。

ほとんどヤケでAさんをデートに誘ってから、この日が来るのをどんなに待っていたことか。仕事中もAさんの顔を見る度に悶々としていたけど、Aさんは案外普通にしていて、やっぱり俺のことはそういう対象として見てないんだなって、めちゃくちゃ悔しかった。だから今日は、Aさんに俺のことを意識してもらう為の日にするんだ。

朝弱い筈なのに目覚まし時計より早く起きちゃって、することもなくなったし気持ちもどんどん急かされるから、だいぶ早いけど待ち合わせ場所に向かうことにした。

駅のカフェでゆっくりコーヒーを飲みながら、今日のプランをもう一度おさらいする。水族館に行って、途中でお昼を食べて、頃合いを見て水族館を出て、近くの公園を散歩するかカフェに入る。あんまり遅くならない内にAさんを家まで送って、今日は終わり。本当はもっと長くいたいけど、最初だからこのくらいでいい。

そんなことを考えていたら待ち合わせ時刻も近くなってきたので、改札前に移動する。Aさんに連絡をして、スマホをいじりながら時間を潰すけど、あんまり頭には入ってこない。だってAさんのことで容量オーバーなんだから。

そろそろかな、と思って顔を上げたとき、真っ直ぐ前にAさんがいた、んだけど。一瞬、あれ、違う？って疑念が頭をよぎった。それもすぐに晴れた訳だけれど、俺はAさんから目が離せなくなった。何その服。何その帽子。何その靴。そんなの見たことない。全部全部、かわいすぎるんですけど。

気付いたら俺の足も前に進んでいて、数歩歩けばAさんが目の前に立った。首を持ち上げて見上げてくるのも、かわいくて仕方ない。メイクもいつもと違う？なんだろ、全部かわいい。

「Aさん、おはようございます」

「お、おはよう」

「一瞬、誰か分かんなかったです。いつもと雰囲気ちがうから」

「え？ああ、服かな。山本くんに選んでもらったんだ」

「…山本さん？」

あ、今。
今日のかわいいAさんを形成する要素として、よく知った人とは言え他の男の名前が出たのを、ちょっと嫌だと思ってしまった。

「え、変かな…？」

俺の焦燥が伝わったのか、Aさんはすごく不安そうな顔をした。よくないな。Aさんは綺麗だよ、本当。

「いや、変じゃないです。行きましょ」

手を繋ぎたい気持ちをグッと堪えて、目的地に向かって歩き出した。