その花の名は (ページ1)

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1.立てばシャクヤクページ1

side:you

初めて彼を見たとき、今時のお洒落な子だなって思った。

次に彼を見たとき、見かけより真面目な子だなって思った。

次に彼を見たとき、意外といたずらな子だなって思った。

次に彼を見たとき、私はこの子が好きだなって思った。

恋に落ちる速さには、自分でも驚いた。こんなに惚れっぽい人間だったっけ？と何度も何度も自問自答した。それでもやっぱり、彼を見ると胸がきゅっと締め付けられるような感覚に襲われるのは確かだった。

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side:ini

「Aさん、」

「なにー？」

「ちょっと編集の方手伝ってもらうことってできます？」

「大丈夫だよ」

「ありがとうございます。じゃあ俺のデスクのとこ来てください」

「はーい」

横からパソコンの画面を覗き込んできたAさんの顔を、俺は思わずまじまじと眺めてしまった。綺麗に整えられた眉、くっきりとした二重の目、長い睫毛、決して高くはないけれど筋の通った鼻、薄すぎず厚すぎない唇。トータルバランスも良い。初めて見たときから、綺麗な人だと思っていた。

ぱちり、と目が合う。

やば。見過ぎた。

「あー…、で、何すればいいの？」

「えと、そうですよね、じゃあ…」

俺はたぶん、この人のことが好きなんだと思う。たぶんっていうのは、この気持ちが好きってことなんだとしたら、一目惚れになるから。俺、一目惚れって信じてないんだよね。だってそれって、単に顔が好きってことになるじゃん。

初めて会ったのは、俺がQuizKnockに入ったときだった。すでにここで働いていたAさんを見て、この世にはこんな美しい人がいるのかって驚いた。世間的に美人かどうかは分からない。でも俺にとっては、それまでの人生で出会った人の中で一番だと思った。

それから何度も会話を交わす内に、もっとこの人と関わりたい、もっとこの人のことを知りたい、と思うようになった。好きな食べ物は何だろう。休日は何して過ごすんだろう。どんな人がタイプなんだろう。そんなことを考えてしまう自分を、ちょっと、いや、だいぶ気持ち悪いなって思ってた。

「おっけー、わかった。ちょっと時間ちょうだい」

「はい、ありがとうございます」

でも残念ながら、俺はこの人に相手にされないと思う。俺なんかじゃ釣り合わない。伊沢さんとか河村さんとか、もっとすごい人じゃないと。

だからまだ、この気持ちは俺だけの秘密。