◇ ページ49
窓の向こうのネオンが、飛ぶように過ぎ去る街並みの明かりが、なんだかまるで現実感が無い。
ぼんやりと眺めながら、俺は自分を慰めるように自然と口ずさんでた。
…Imagine your face
Say hello to me
Then all the bad days
They’re nothing to me with you…
「お兄ちゃん、歌上手いなぁ？歌手になれんじゃないか？」
きこえてたらしいタクシーのおじさんがそう言って、手放しで褒めてくれた言葉に、クスッと笑う。
「なれますか？俺、本番に弱いタイプなんですけど」
「あー、そりゃだめだな。肝心な時に力出せないんじゃ、何も掴めねぇよ」
あ、意外と辛辣。
「そうです、よねぇ」
頭の中ではすごく簡単に、Aを笑顔にする自分を、彼女を幸せにできる自分を、何度でも思い描けるのにな。
思えば最初の偽名から、ミスしてたんだ。
それからAをソウルに呼んで、サブマネに押し込んだから、一番遠い場所にいたはずのグクに近付けてしまって。
俺がAを困らせて、グクを頼るような状況作ってしまって。
全部自業自得じゃないか。
タクシーのおじさん、あなたは正しいです。
俺は肝心なところでミスばかりして、掴むことができなかった。
Aと一緒の、幸せな未来を。
「…Winter bear
Sleep like a winter bear…フフっ」
続きを歌いながら…なんでかな、笑えてきた。
ほんとAのメンタルどうかしてる。
あの状況であの強気、おかしいでしょ。
ひょっとしたらって俺が密かに狙ってた、俺との友情の先にあったかもしれない未来も、根こそぎ刈り取ってったね。
俺が土俵に引きずり上げたってのに、全然勝てなかった。
たぶん一生負け続け。
まあ、それでもいいよ。もう。
俺、それでもAの側にいたい。
離れたく無い。
こんなのもうほんと、お兄ちゃんになるしかないよ。
あ、でも待って？
「あー、そしたら別れることもないから、まあ…いいかぁ」
暗い気持ちに、ぽっと明かりが灯るような感覚。
「ん？どした？この道で合ってる？」
運転手さんが声をかけてきて、合ってますってOKサインしつつ。
胸の明かりはまだ小さくて、でも光る力はかなり強め。
眩しくて、暖かい。
車を降りる頃にはもう、気分はそんなに悪くなかった。
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作者名：フネ55
| 作成日時：2023年4月19日 23時
