出張 ページ10
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先日の出来事から数週間。
モヤモヤとした気持ちはどこかにあるものの、
どうすることも出来ずに彼との日々を過ごしていた。
そんな矢先、
彼から二泊三日で地方への出張を聞かされた。
『二泊も…?』
「あァ、まじめんどくせェ。」
同棲してからは毎日一緒だった為、
二泊ですら寂しさを感じてしまう。
『…浮気しちゃだめだからね?』
こどもみたいに彼の肩にぐりぐりと頭を押し付ける。
「お前こそなァ?」
寂しがり屋だからなァ?なんてニヤリと笑われ、
首筋に口を寄せられ走る痛み。
「ん、虫除け。」
ちゅっと音を立てて離された唇。
そんなことをしなくたって、私は実弥しか見えてないよ。
*
そして、当日。
「んじゃ、言ってくるわァ。」
くあ、と欠伸をしながら気怠げに玄関へ向かう彼を見送る。
何故だろう、なんだか無性に離れたくない。
連日のモヤモヤとした気持ちのせいで思考回路が少し崩れた私は、きっと彼が一番避けたい話題を出してしまう。
「実弥ってさ、結婚願望あるの?」
…ん?と驚くような声が上がる。
それもそうだろう。
いきなりでしかもこのタイミング、不思議に思うのが普通だし困らせるのはわかっていた。
だけど、ひとりでにぐるぐると回り続けた私の脳内は“今じゃない”と止める力を持っていなかった。
『…あ、ごめん、急だよね』
忘れて?行ってらっしゃい!と無理やり向ける私に、彼の手が伸びてきてその胸元にぽすんと収まった。
「考えてないわけじゃねェが…
今は一番の稼ぎ時だァ。それに、俺はこうやってのんびりお前と過ごしていきたい。
それは結婚してもしなくても変わらないんじゃねェ?」
『…そう、だよね。急にごめん。』
「愛してる。いい子で待ってろな。」
バタン、と閉まるドア。
静かな空間に、乾いた笑い声。
『変わらない、かぁ。』
実弥にとって、結婚というのはそんなものに過ぎないということだ。
それに…
『愛してるなんて、初めて聞いたよ。』
上手くはぐらかされたのは分かっている。
口下手でどちらかというと無口の部類に入る彼があんなにつらつらと話すのは、早く終わりにしたくて私を丸め込みたい時だ。
私がああやって、抱きしめられて甘い言葉を言われることに弱いのを知っているからだ。
『ずるい、ずるいよ実弥…。』
どうか、今だけは泣かせてほしい。
やっと正常に涙腺が機能したのだから。
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ひよ(プロフ) - 完結おめでとうございます…! 宇髄さんの「俺を選んでよ。」、裏設定を知ると尚の事、ぐう、となりました。からの唯梨さんのオチ……私は両方のパターンを(セリフまで)妄想させて頂いてから就寝した次第です。文字数が足りません、、次作もお待ちしてます!! (2021年10月14日 7時) (レス) @page23 id: a2712468ed (このIDを非表示/違反報告)
衣世(プロフ) - 完結おめでとうございます!私は実弥と結婚しました( 〃▽〃)笑。途中ドキドキ動悸が止まりませんでした(TдT)次回作も楽しみにしてます❗ (2021年10月14日 5時) (レス) @page29 id: 1ea4fe96cf (このIDを非表示/違反報告)
奏海(プロフ) - 完結!おめでとう!!!!!!最後の最後に私はてんてんと結ばれました…。やっぱ2人とも天才だわ!私得でしかないコラボをありがとう🤍完結後のコメは私が一番最初に貰いたかった!!!!連投失礼! (2021年10月13日 23時) (レス) id: d291d10447 (このIDを非表示/違反報告)
あさひゆうひ(プロフ) - 完結おめでとうございます!!!手に汗握る展開に心拍数がヤバかった!そして、急展開、どっちとも取れるオチが好きな私には堪んない!大好きな二人の合作が読めて幸せだったよ!次作!!!楽しみ過ぎる!りりちゃんのギャグ甘!読みたい!!! (2021年10月13日 23時) (レス) @page28 id: 9c7376e839 (このIDを非表示/違反報告)
羽糸(プロフ) - 奏海さん» 師範が本当最高のオチを書いてくれたよ…流石すぎるよ…完結直前に早まってコメントしちゃう奏海ちゃん最高だよ!らぶ❤️❤️ (2021年10月13日 23時) (レス) id: 85bd249cc8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:唯梨 x他1人 | 作成日時:2021年10月1日 22時