不完全恋愛【不死川実弥】

隣人 ページ5

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数週間がたった。
今日も今日とて仕事に明け暮れていたのだが
運が悪いのか取引先とトラブルになった上司から八つ当たりをされ、例のごとく後輩から飲み会に〜などと誘われ散々な一日だった。


加えて、今日実弥は付き合いで飲み会。
つまり、こんなモヤモヤを抱えたまま一人で夕食を食べなければならない。
あぁ、最悪だ。今日はとことんついていない。






＊





何も作る気になれなくて、
いつもだったら買わないスーパーのお惣菜コーナーに手を出した。
買い物袋には缶ビールが数本。
もう、今日の食事はこんなものでいい。
彼はきっと遅いし、好きに過ごそうと思う。






ささっと食事を済ませたあと、
二本目の缶ビールを持ってベランダへと出た。
プシュッと音を立ててプルタブをあけ、
ゴクゴクと音を立てながら喉を潤す。
やけ酒なんて自分には縁がないものだと思っていたが、何故こうも苛立っている時は酒が進んでしまうのだろうか。


いつもなら一本で満足してしまうのに、
今日に限っては買ってきた数本を全て空けてしまいそうに思えた。






『あ〜〜っ、染みるわぁ…。』

何だかいつも彼が言っているようなセリフだな、なんて思ったのは、一枚薄い壁を隔てた向こう側からブハッと吹き出すような声と、風に乗ってくる煙草の匂いに気付いてからだった。






＊





『え、人…っ、！？』

まさか聞かれていてさらに笑われるなんて予想もしていなく、なんとも間抜けのような反応をしてしまう。






｢どーも、最近越してきた宇髄っす。よろしく〜｣

隣からひょいと顔を出したのは、
これまた端正な顔立ちをした自分より二つか三つほど年上に見える男性だった。





『あ…どうも、佐伯といいます…。』

ただ隣に越して来て、
たまたま独り言を聞かれてしまっただけの関係。
それが後にあんな事になるだなんて事はもちろん、想像すらしていなかった。



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