不完全恋愛【不死川実弥】

渇望 ページ12

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｢あ、そこの交差点右で！
にしても、家が同じだと楽でいいな〜！｣


『なんかそれ語弊あるよね。』



薄暗いタクシーの車内。
私の右手は彼の左手に繋がれていた。
その手があまりにも暖かくて、振りほどくことは出来なかった。






『…ちょ、さすがに出させてよ！』

｢あーはいはい分かった分かった。｣



お店でも出させてもらえず、
タクシー代も払おうとしている彼にさすがに悪いと思い先程の一万円札を出すも
そんなかからねぇから！と笑われあっという間に支払いを済まされてしまった。


『…ごめん。』


｢お前、そういう時はありがとうだろ？｣


まったく、可愛げのねぇ女だな。なんて笑いながら頭を撫でてくる様子に、嫌でも女性の扱いの上手さを感じてしまった。



『…じゃ、ありがとね。』

また、と背を向けた私の腕が引かれる。


｢なぁ、お前どうせ帰って泣くんだろ？
俺ん家で飲み直さねぇ？｣


『…いや、でもさすがに。』


そうだ、さすがに間違いは起こらないとは思うが仮にも男と女だ。
そして私には同棲している彼氏がいるし、出張中。
そんなタイミングで他の男の人の部屋に上がるのは倫理的にどうなのか…。




｢…ん、なら仕方ねぇな！んじゃおやすみな。｣

私が考えているのに焦れったさを感じたのか、
ぱっと手を離した彼はニカッと笑って自分の部屋のドアに手をかける。


何だか急に寂しさを感じた私は
背を向けた彼の服の裾をちょい、と引っ張り






『……今酔ってるから、
…部屋、間違えたってことで。』

と、目を逸らしながら言ってしまう。




苦し紛れの私の言い訳に彼は
｢お前、嘘下っ手くそ！｣と吹き出したのだった。



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