蜃気楼*FK

蜃気楼*8 ページ8

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ひろのお母さんが来たり、バタバタしてる間にあっという間に時間が過ぎて、帰宅する頃にはもう日付が変わっていた。




いろんな人から連絡が入っていたけど返す気にもなれなくて、スマホをソファーに投げつけた。
そういえば昼から何も食べていない。こんな状況じゃお腹も空かない。



"こら、物投げんな"


"お前すぐ飯抜くのやめろよ、ちゃんと食え"




……もう、いない。
俺を叱ってくれるひろは、もう、いない。




あの時、行かせなければ………
まだここに、いたはずだったのに。




「…………うっ……」




大してものも食べてないのに、罪悪感でまた吐き気が襲う。
ふらつく足でトイレに向かい、吐き出す。
冷蔵庫を開けて水を取り出し、口をゆすいでから水を飲んだ。
そしてまたソファーに移動する。



…どうしてひろがこんなことに。
考えるのはそんなことばかりだった。
考えたって仕方ないのもわかってる、ひろはもう帰ってこない。





「…守るって、約束したのに………」




一度止まった涙がまたあふれてくる。
ひろにもらったデニムが俺の涙でところどころ色濃く変わっていく。
ありえねー。信じらんない。




散々泣いて、もうどれくらい時間が経ったかわからない。
やっと涙が引いてきて、ふっと顔を上げると2匹のテディベアと目が合う。
何時間ぶりかに立ち上がり、テディベアの前にまたしゃがむ。




「……ひろ、いなくなっちゃったよ」




自分の言葉が自分の心を抉っているのがわかった。
震える手で2匹のテディベアを抱き寄せる。




"これが俺ので、こっちがひろのね"
"なんで2匹？"
"分身！俺に会えなくても、寂しくないように"






ひろ、今頃、寂しがってる？
ひとりで、俺もこいつらも、置いてっちゃって、寂しがってる？







抱きしめたテディベアたちをふわ、と抱き上げる。
車のキーを握りしめて、家を出た。





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