蜃気楼*FK

蜃気楼*5 ページ5

*





「あれー？切らしちゃってるのかな、買い置きなさそう」




この声……
太輔？



夢？




ぱち、と目を開くと俺たちの部屋で。
あれ？俺、さっきまで、海岸にいて、それから？
よく覚えてない……




「きたやまぁ、俺ちょっと買い物行ってくる」
「おー、どこ行くの？」
「コーヒー切らしちゃったから、買ってくる」




自分で自然に受け答えした会話に聞き覚えがあり、慌ててスマホを開く。
9月16日、14:50……
俺、あの瞬間の夢を見てるの？




「ちょ、ちょっと待って、太輔」
「ん？なに？買ってきてほしいものでもあった？」




ソファーから立ち上がってキッチンにいた太輔に近づいて、ぺた、と太輔の頬に触れる。




「あったかい……」
「何言ってんだよ、」




自分の腕をつねる。




「いて、」
「さっきから、何？俺、買い物行くけど」




夢、じゃない……？
頭が追いつかない。夢じゃないなら何？
時が戻ってるとでも言うのか？
そんな、ありえない、映画じゃあるまいし……




ばっと部屋を振り返り、テレビの隣の棚……
確かに、間違いなく、テディベアが2匹並んでいる。





本当に、時間が、戻ってる……？
いやいや、そんな、ありえない、
悶々と考える。





「きたやまぁ？俺、行ってくるからね」
「！？ま、待って！！」
「…？なんだよ」




明らかにおかしい俺の態度に、少し不満そうな顔の太輔。
そりゃそうだ、俺だって、何が起こってるのかさっぱりだ。
だけど、ここで太輔を家の外に出しては、また同じことを繰り返す、かもしれない、
なら俺が行って、死なずに戻ってくればいい話だ。




「俺が行く」
「はぁ？いいよ、別に、俺が行くから」
「いや、別に買うもの思い出したから。とりあえず、太輔は家にいて」
「んー、わかった」




「じゃあ、行ってくるわ」
「気をつけてね、ひろ」




俺のおかしな態度に少し考えたあと、了承の意を述べた太輔の代わりに、俺は家を出た。





*

蜃気楼*6→←蜃気楼*4

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す